以上に見られるように, CPS は製品競争力を高める職務に特化している。非常に広範囲の職務をこなしていた商品主管と比較すれば, CPS の職務範囲は小さく,職務内容は専門化されているように思われる。 1999 年のヒアリングでは,商品主管の仕事は「オーケストラの指揮者みたいなもの」 と表現されていたが, CPS では「オーケストラの指揮者というよりは職名通りスペシャリストに近い」 と述べられている。従来,商品主管を務めていた「X-TRAIL(エクストレイル)」 の初代 CPSは,新体制移向当初には,「新体制では事業性は PD が見てくれるので過負荷が解消した」と述べているなど,商品主管への権限と責任の集中が一定程度緩和され,それぞれの職務に集中することが出来ると考えられる。
ただし,ヒアリングでは以下のような内容も聞かれた。
「当然分割されたから,楽になるだろうと思っていましたが,実際には,仕事自体は専門性が求められるわけです。スペシャリストと言うぐらいですから,スペシャリストとしての能力を要求され,その部分は深くやらなければいけない。求めるアウトプットを高くするために分割したわけですから,1人当たりの負荷は軽減されたわけではなくて,より深くなったということです」「CPS になってから, 24 時間常に緊張感があります。1 日に大体 4 時間半ぐらい寝ていますが,なるべく朝早く起きて,家でも電子メールでヨーロッパと交信したりしています。自
分にとって必要な情報が世界中から入ってきますから,それに素早く反応していかなくてはいけません。収益などは, PD が責任を持ってくれるわけですけれど, CPS の分野だけでも,私が持て余すほどの責任があると思っています。例えば,お客さまが何か不満を持っていたり,困っている販売会社がいたり,他社が何か新しい商品を出してきたら,すぐ手を打たなくてはいけない。 TV の CM がうまく行かなかったら変えさせなくてはいけないし,思った通り行っているものと行っていないものを,常に把握していないといけないわけです。例えば,『この間行ったサウジアラビアのプランはその後うまく行っているか』とか,『コロンビアから今日メールが来たけど,あそこは作戦通りうまく行っているのかどうか』などということです。それを世界全体で見ているわけですから,それだけでも相当大変で, もう十分責任が高いですし,とても他のことは出来ないと思います。素早く手を打って行かなくては,競争に負けてしまうわけです。うまく指摘できなくて方向を誤ってしまったら,その後でどんなに一生懸命開発したり原価低減しても,全く売れなくなってしまうわけです。販売台数が突然減少したら,販売台数や他社製品の競争力を予測出来なかった CPS に責任があるわけです。そういう意味では非常にプレッシャーを感じます。」
このように新体制においては,職務範囲が狭くなった分,職務に対する責任が明確になり,より深く高度な内容が求められるようになったといえよう。責任の明確化という意味では,同社では「コミットメント」を交わすことも行われているが,これについては後述することとする。
また同社では,自社が販売している車種を大きく 5 つのセグメントに分け,セグメントCPSという役職が CPS と兼任で兼任で置かれている。 CPS は自分が担当した車について,製品開発から販売まで関与しているわけだが,担当している車が,自社の別の車種と同じ顧客をターゲットとしている場合,市場のカニバリゼーション(Cannibalization:共食い) が起こることになる。こうした状況を防ぎ,ラインアップをどのようにするかといったことを行うことで,セグメント全体の販売台数増加を目指すことが行われている。今回のヒアリングでは, CPSが SUV(Sports Utility Vehicle)のセグメントCPS, CPS が高級車のセグメントCPSであるとのことであった。具体的には,以下のようなことが行われている。「主として,カニバリゼーションが起きないように製品ラインナップをおくとか,マーケットリサーチや購入者分析方法の統一といったことを行います。最初にその車ごとのポジションを決めてしまったら,後はあまり細かいことは言いませんが,大きな会議で報告を行う際は,そこで経営判断が行われるので,そういうときには一緒に出てサポートします。プレゼンテーションは CPS が行うので,何か質問がきたときに,セグメント全体の視点から,例えば,『このセグメントで見ても大変だから是非やらせてほしい』だとか,『このデザインは隣のモデルとこういうところに共通点があってもいいし,十分に差別化できている』といったことを答えたりします。後は人事です。仕事の繁閑がありますので,人員を適当的に調整します。