原文
- 英国にスティフ・アッパー・リップという言葉がある。直訳すれば「堅い上唇」。つらい時も感情を出さず、弱音を吐かないという文脈で使われる。英王室の王子ふたりが「上唇を自由にして苦しみを率直に語ろう」と呼びかけている。
- 弟のハリー王子(32)は先月、母のダイアナ元妃と死別してどれだけ苦しんだか赤裸々に語った。「感情を閉ざし、私生活だけでなく仕事にも深刻な影響が出た」「誰かを殴りつける一歩手前まで行った」。
- 兄のウィリアム王子(34)も先月、「(母の死は)克服できない。対応の仕方を学ぶしかない」とBBCに語った。元妃がパリで事故死した日、兄は15歳、弟は12歳だった。
- なぜ告白を始めたのか。「救急ヘリの仕事を通じ、自殺の多さに驚いた。私の子どもが苦しみを隠さずに語れるようであってほしいと願った」と兄が語る。「スティフ・アッパー・リップの大切さもわかるが、そのせいで病むのは行き過ぎです」。
- 〈少年らしいゆめも少年らしい暮らしもなかった(略)そのときどきの気持さえ/偽りかくすことを覚えていた〉。詩人大木実さんの「少年の日」を思い出す。数え7歳で生母と死別し、11歳の関東大震災で継母を亡くした。少年期の心の空白を多くの詩に刻んだ。
- 14日は母の日である。英国では3月か4月に祝うそうだが、思春期に母を失う傷の深さは変わるまい。胸の奥にしまい込まない。唇をかみしめすぎない。弱音を誰かに打ち明けてみよう。王子たちの勇気にならって。