ACT2 蜜月
私は長い事この人を誤解していたのかもしれない。
いや、誤解とは違う、むしろ在りのままと言った方が正しいのか?
ジークフリード・キルヒアイスは狭いベッドの中で、寝付けない夜を過ごしていた。隣には一月前ようやく想いの通じ合った、美しい恋人が横たわり、無防備な姿で規則正しい寝息を立てている。
仰向けに顔をややキルヒアイスの方へ向けて、心地良さそうに眠るその姿は、まるで天使のようであり、決して汚してはならない神聖な者に見えた。
ここのところラインハルトは、一月前の「狭いベッドで一緒」というのが気に入ったらしく、二人が同じ時間に就寝で居間を離れる時は、決まってラインハルトが何か言いたげにキルヒアイスを見て、キルヒアイスが気を利かせて「一緒に寝ますか」と誘うのが常となっていた。
晴れてキルヒアイスの“お誘い”がかかると、嬉しそうに自分の枕を抱えて来る姿が、キルヒアイスにはとても愛しかった。だが、ここ数日キルヒアイスは、愛しいに違いはないのだが、一緒に寝ることに疲れを感じていた。
長い事、ラインハルトさまは恋愛事については、疎い人だと思っていた。けれど、私のことを好きだと言ってくださるし、満更恋愛はダメと言う訳ではないことは分かった。だか……普通18歳の健康な男が、好きな人と一つのベッドに寝ていて何もないとは、どうしたものだろうか……そう言った意味でやはり、疎い人と言うべきだろうか。
一緒に眠った二夜目は、私は正直“許可”が出たのもと思っていました。なのに貴方はさっさと寝ているし、一人緊張した私は馬鹿みたいでしたよ。そしてその次の夜も、次も次もそして今夜も……相変わらず私は緊張したままで寝付けません。なのにこの気持ち良さそうな寝顔……まったくこれじゃ、餌を前に「待て」をさせられた犬と同じじゃありませんか……
キルヒアイスはラインハルトの寝顔を見ながら、恨めし気に溜息をついた。
しみや傷一つない白い綺麗な肌。まっすぐに通った鼻筋。影を落とす長い睫毛。そして輝くような金髪……これほど美しく整った人がいるだろうか……キルヒアイスはまじまじと横たわる恋人を見つめた。
細く整った顎のラインから続く首筋。パジャマの衿元から覗く鎖骨……見てみたい……キルヒアイスは無意識にパジャマのボタンを外した。
はだけたところから白い胸が現れ、自分の喉を生唾が流れて行くのを感じた。
白い肌に浮かぶ胸の突起を見止めると、触れたい衝動に駆られた。吸い寄せられる様に顔を近づけて、小さな突起をそっと舐める。ラインハルトの乳首が、自分の唾液で光るのが見えた。徐々に皺が寄って、中心が硬く隆起していく。
「……んっ……」
寝返りをうとうとするラインハルトの声に、キルヒアイスは我に返って、気付かれないように慌ててボタンを閉じ、何事も無かったかのようにラインハルトに背を向けた。
急速に体温が上がり額に汗が浮かぶ。だが、体温とともに上がってしまった脈拍が、静まり返った部屋とは裏腹に、激しい音をたてていた。
硬く目を閉じて何か別の事を考えようとしたが、返って先ほどのラインハルトの姿が目の前から離れない。それどころか事もあろうに、浮かび上がったラインハルトは、着ているパジャマを脱ぎ始めた。
キルヒアイスは邪心を振り払おうと、頭を抱え更に硬く目を閉じた。
……なんて事だ……
必死に気を紛らわそうと試みたにも関わらず、自らの一部が別の意思を持って、存在を主張し始めた。若いキルヒアイスには、こうなってしまってはどうすることも出来ず、逃げるようにベッドから抜け出すと居間へと駆け込んだ。
ハアハアと息を切らして、閉めた居間のドアに背をあて、激しく脈打つ気持ちを落ち着かせようと必死になった。
……これじゃ……これじゃまるでただの欲求不満じゃないか!
別の事を考えようとしても、先ほど浮かんだラインハルトの姿が、脳裏から振り払えず、とうとうキルヒアイスは諦めて、自分の股間へと手を伸ばした。
……お許しください、ラインハルトさま。
刺激を受けて、キルヒアイスの分身は勢を増した。脳裏に浮かんだラインハルトはすっかりパジャマを脱ぎ去ってしまい、艶かしい姿をさらしている。
「……んっ!」
浮かんだラインハルトが一際のけぞると、キルヒアイスは分身を開放した。達成感や開放感がキルヒアイスを満たした瞬間、後悔と罪悪感が押し寄せて来た。自身が放ったものに目を落とすと、言いようの無い虚しさが込み上げて来て、キルヒアイスはガックリと肩を落とした。
身支度を整えても、ラインハルトが眠る自分のベッドに戻る気にはなれず、そのまま居間の長いソファーへ横になった。
……最低だ……
その夜、後悔と罪悪感にさいなまれたキルヒアイスは、一睡も出来なかった。
「おはようございます。ラインハルトさま、起きて下さい。朝ですよ」
すっかり軍服に着替えたキルヒアイスが、熟睡しているラインハルトを起こした。目を覚ましたラインハルトが、目を擦りながらキルヒアイスを見上げる。
「早いな、キルヒアイス」
さっきまで、罪悪感と後悔で、ラインハルトの顔をまともに見る事が出来なかったキルヒアイスは、この、のん気な恋人の目覚めに、軽い苛立ちを覚えた。自分でも、やり場の無い気持ちをラインハルトに当てているとは感じたが、寝不足のせいか、気持ちを改めることが出来ない。
……そりゃ早いですよ。何せ昨夜は一睡も出来ませんでしたから。寝ることも出来ず、後悔や罪悪感に襲われ、これでは自分の身が持ちません。
ラインハルトをまともに見ないままキルヒアイスは、そう心の中でぶつぶつぼやきながらカーテンを開けた。
起き上がったラインハルトの顔に朝日があたる。キルヒアイスは朝日を浴びて、輝くラインハルトに一瞬目を奪われた。だが、脳裏に昨夜の事が浮かぶと、赤面してすぐに目を逸らした。
何も知らないラインハルトは、目覚めのキスをする為に、窓辺に立つキルヒアイスのもとにやって来た。
キルヒアイスは緊張して壁にぴったりと背をつけ、これ以上後ずさりできない状態になって動けないでいた。
ラインハルトの手が伸びて来て、キルヒアイスの両腕に添えられる。キルヒアイスの頭の中では、昨夜の裸体のラインハルトと、今のラインハルトが交互に見えて、ほとんどパニックを起こしかけていた。心臓が暴れて、口から飛び出すのではないかと思われるほどに、脈拍が激しくなり、綺麗に赤みがさしたラインハルトの唇から目が離せないでいた。
「……キルヒアイス?どうしたのだ、目が真っ赤だぞ。それに、目の下ひどいクマだ」
瞬間キルヒアイスは、呆れたというか苛立ちを通り越して、軽い怒りに似たものが湧き上がって来た。
まったく、いったい誰のせいだと思っているんですか!このニブチン……
「昨夜は一睡も出来ませんでしたので!」
キルヒアイスはそう言い放つと、さっさと朝食をとるために部屋を出ようと歩き出した。
「お、おい、何怒ってんの?」
急に不安になったラインハルトが、キルヒアイスを引き止める。
「べつに怒ってなんかいませんよ!」
不服を絵に描いたような顔をして、キルヒアイスが振り返って言った。
ラインハルトは急に大きくなったキルヒアイスの声に驚いて、呆然と立つくしていた。何もここまで当る事は無かったのに、とその姿を見たキルヒアイスは、急にバツが悪くなって足早に部屋を出た。
気まずいままキルヒアイスは先に出かけ、結局ラインハルトは、キルヒアイスの機嫌が悪くなった理由が分からないままでいた。キルヒアイスにとっても、別にここまで避ける理由もないように思えたが、ただ意地をはったというか、自分だけが先望みをしていることが悔しかったのか、単に拗ねたというか、自分でもよく分からないでいた。
その日一日、珍しく二人は多忙を極め、まともに顔を合わせないでいた。しかもキルヒアイスは戦術研究会があったので帰りは遅く、誰もいない下宿の居間でラインハルトは一人、朝の出来事を考えていた。それでもいくら考えてもラインハルトには、キルヒアイスの不機嫌な理由が分からなかった。次第に何も言わず、一方的に不機嫌になったキルヒアイスに、怒りが湧いて来た。
大体キルヒアイスは陰気なんだ。何にも言わず、ただ一方的に不機嫌になったりして。言ってくれなきゃ分かんないじゃないか。いったい何だってんだ……イライラするなあ、もう!
ラインハルトはカリカリしながら、キルヒアイスが帰って来るのを待っていた。時計が夜中の12時をまわったころ、キルヒアイスの寝室のドアが閉まる音がした。
キルヒアイスの奴、逃げたな!
ラインハルトは居間を出ると、「ただいま」も言わず自分の部屋へ入った恋人を追った。バンと大きな音を立ててドアを開けると、ツカツカと歩み寄って、手を腰に当てると一気にまくし立てた。
「お帰りキルヒアイス!……いったい何だってんだ?何怒ってるんだよ、言ってくれなきゃ分かんないじゃないか!」
キルヒアイスは、ラインハルトの勢いに押されてたじろんだ。もともと、今日一日、自己嫌悪に浸っていたキルヒアイスは、返す言葉も見つからず、ただうな垂れるばかりだった。その様子に拍子抜けしたラインハルトは、一方的に怒鳴ってしまった事を後悔して、心配そうにキルヒアイスの顔を覗き込んだ。
「キルヒアイス?」
ラインハルトの顔が間直に迫り、透き通るようなアイスブルーの瞳が自分を映した。突然キルヒアイスの脳裏に、昨夜のラインハルトの裸体が浮かんだ。一瞬にして顔を赤らめ、慌てて視線を逸らす。
「……はっきり言ってくれよキルヒアイス。でないと俺の事、嫌いになったんじゃないかって、俺……不安になるじゃないか……」
キルヒアイスはハッとしてラインハルトを見た。今度はラインハルトの方が、力無くうな垂れていた。キルヒアイスは正直に話すべきか迷ったが、うな垂れるラインハルトを見ていると、申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。
「嫌いになんかなってませんよ。ただその、ラインハルトさま……」
声がすると、ラインハルトは顔を上げて、キルヒアイスの青い目を見た。するとやっぱり、キルヒアイスは赤面して目を逸らす。
「ただ、何?」
「……欲求不満みたいなんです」
何を言っているのか、さっぱり分からないという表情をして、ラインハルトが自分の方を見ていた。もっとはっきり言わないと、このニブチンには分からないだろうという事は知っていたが、いざ本人の目を見てしまうと、なかなか口には出せない。
「ラインハルトさまは、私に触れたいとお思いになりますか?」
キルヒアイスの言葉に、一瞬首を傾げたラインハルトだったが、すぐに笑いながらキルヒアイスに抱きついた。
「そりゃ思うさ。こうやって抱きしめてもらいたいし……」
「そういう意味じゃないんです」
ラインハルトの言葉を遮るように、キルヒアイスは言った。ふざけて抱きついてきたラインハルトを押し離すと、諦めたようにラインハルトの目を見て言った。
「私が言ってるのは、セックスのことです」
キルヒアイスの言葉に、またもラインハルトは首を傾げた。やがて、ほのかに頬を赤らめた。
「それって、男と女がするものだろう?俺たちじゃ出来ないだろ?」
本気で言ってるのかと、半ばキルヒアイスは投げやりな気分になって来た。
「そりゃ、同じという訳にはいきませんけど、出来なくはないですよ」
「え、でも……い、挿れなきゃいけないじゃないか……」
キルヒアイスはここへ来て、先ほどまでの恥ずかしさが嘘のように消え去り、すっかり、投げやりになってきた。対するラインハルトは真っ赤になって、とてもキルヒアイスを直視出来る状態ではなく、俯いて小さな声を出していた。
そこへ、キルヒアイスから最後のとどめが降ってくる。
「あるじゃないですか、ひとつ」
ぴたりとラインハルトの動きが止まった。それはまるで呼吸さえ止まったようで、硬直に近かった。やがて、どこかしら思い至ったようで、目を見開いてキルヒアイスを見上げた。妙に落ち着きを払った彼の青い目に合うなり、機械仕掛けのようにぎこちなく俯いた。
段々体の力が抜けて行き、終いには頭を抱えて座り込んでしまった。
……ひとつって事は、やっぱりアソコしか無いよな……でも……でもどうやって……第一挿るわけない……痛そうだし……て言うか、やっぱり入れられるのは俺?
頭を抱えたまま恐る恐る見上げると、仁王立ちで腕組みをして、自分を見下ろすキルヒアイスが見えた。
このときキルヒアイスは、そんなに威圧的な態度を取った覚えは無かったが、ただ単にラインハルトがパニクっていたため、さもキルヒアイスが自分に襲い掛かって来そうに思えていた。
さらにパニックのどん底に陥ったラインハルトは、再び頭を抱えて俯いた。
……だよな……どう考えたってキルヒアイスがヤる方で、俺がヤられる方だよな、背だってキルヒアイスの方が高いし、体だって頑丈だし、運転だって、射撃だって俺よりうまいし……それにそれに……
頭を抱えて座り込む姿を見ていると、キルヒアイスは、何だかラインハルトを自分が虐めてしまったみたいで、かわいそうになって来た。そんなにショックを受けることなら、一緒に寝てても何もないのも当然かと、妙に納得していた。まあ、その気になってくれるまで気長に待つか、などと気持ちに余裕すら出てくる。
「ラインハルトさま」
そっとラインハルトの肩に手を置いた瞬間、ラインハルトはビクッと体を強張らせた。
「……すみません。そんなに怖がらないでください。私が焦り過ぎたのが悪かったのです。ラインハルトさまが、許して下さるまで待ちます。ここまで来るのに何年もかかったのですから、今更どうということもないでしょう。ですから、何もしませんから、ほら立って。もう遅いですから寝ましょう」
ラインハルトの腕を持って立ち上がらせると、やさしく手を引いてドアの方へ歩き出した。
ラインハルトは手を引かれながら、先を歩くキルヒアイスの背中を見た。いつの間にか、自分より広く逞しく成長した恋人の背中。均整の取れた筋肉が、歩くたびに軍服を通して見える。
…直にこの背中に触れてみたい……ラインハルトはそう思った。
いく晩も一緒に寝た傍らで、キルヒアイスは一人欲望を抑えて、それに気付かず耐えさせた自分が、ひどい人間に思えてきた。自分だって、傍にいたかったし、キルヒアイスに触れたかった。今だって背中に触れたいと思っている。
キルヒアイスはラインハルトの額にキスをすると、ドアを開けてラインハルトだけ廊下に出した。
「おやすみなさい」
やさしく微笑んでラインハルトにそう告げた。だが、繋いだ手をラインハルトが離せないでいた。何か言いたげにキルヒアイスを見上げる。
「ラインハルトさま、私はそう出来た人間ではありません。自分を抑えるのも限界があるんですよ」
キルヒアイスは苦笑いして、ラインハルトの手を解こうとした。
「キルヒアイス……その、俺だってもっとキルヒアイスに触れたいと思ってる。お前が許してくれるんなら、その……触りあうまでならしたいかな、なんて……ごめん。最後までは、まだ心の準備ができてない。それでもいい?」
繋いだ手を見ながら、耳まで赤くしてラインハルトはやっとの思いで言った。そんなラインハルトの姿を見てキルヒアイスは、どうしようもなく愛しい気持ちになり、繋いだ手に力を込めて、自分の胸に引き寄せた。
「無理なさらなくてもいいんですよ」
体を預けていたラインハルトが、キルヒアイスの背中に両手をまわして抱きついた。
「無理じゃない!……もっと近づきたいんだ。……知りたいんだキルヒアイスのこと」
キルヒアイスは輝く金髪を抱きしめて、ほのかにシャンプーの香りがする髪にキスをした。
「ラインハルトさま……いいんですね」
ラインハルトがコクンと頷いて、まわした手に力を込めた。
キルヒアイスはラインハルトを引き離すと、再び手を握ってベッドのところまで歩いた。
緊張したように、二人は言葉無く立ちすくむ。少し時間が流れて、静寂に耐えられなくなったキルヒアイスが、ラインハルトのシャツに手を伸ばした。
瞬間、ラインハルトの体がビクッと強張る。
ラインハルトのボタンに掛けられたキルヒアイスの手が止まる。
「いい。自分で脱ぐ……明かり、消して…」
ラインハルトに言われるまま、部屋の明かりを消して振り返ると、カーテンの隙間から月明かりが差し込んで、ボタンを一つずつ外す、ラインハルトの姿を淡く照らしていた。
遠巻きに、服を一枚一枚脱いでいく姿を見ていたキルヒアイスは、その優雅で官能的な動きに見とれていた。
「キルヒアイス…来て…」
やがて、下着一枚になったラインハルトの声がして我に返ると、導かれるまま、ラインハルトの傍へ歩み寄った。澄みきったアイスブルーの瞳に見つめられ、キルヒアイスは自分の軍服に手をかけた。
「……いい。かして…」
自ら脱ごうと軍服にかけた手を、ラインハルトに止められ、キルヒアイスの手は所在なげにゆっくりと落とされた。ラインハルトの細い指が、優美な動きで軍服を脱がせてゆく。どさりと音をたてて軍服が床に落とされると、シャツのボタンに手がかかった。
……ラインハルトさまが自分で脱ぐ、と言われた気持ちが分かったような気がする。人に着ているものを脱がされるというのは、ひどく恥ずかしいものだな……。
ラインハルトに脱がされながら、キルヒアイスは目のやり場に困って、天井を見つめながらそう思っていた。やがて、シャツまで脱がされると、キルヒアイスの逞しい体が現れた。
「…後ろ、向いて…」
ラインハルトに言われるがまま、キルヒアイスは後ろを向いた。ためらいがちに細い指の触れる感触がして、やがて筋肉を確認するように、手のひらが背中を這い回った。
触れた場所から、全身に微熱の波紋が広がって行く。一瞬の間をおいて、温かいものがキルヒアイスの背中一面を覆った。それがラインハルトの頬や胸だと分かると、キルヒアイスは振り向いて素肌のラインハルトを抱きしめた。
「…暖かいな…」
キルヒアイスの首筋に顔をうずめて、ラインハルトが言った。
「素肌が触れ合うって、こんなにも満たされるんだな…お前に触れられてるところから、幸せな気持ちが満ちてくる……」
ラインハルトの金髪に指を差し込んで撫でながら、キルヒアイスが軽くキスをした。
「ラインハルトさま。私も同じです……」
お互いの唇が触れ合うスレスレのところで、キルヒアイスが返した瞬間、ラインハルトの唇を奪うように、激しくキスをした。
「ん……ふんっ…」
ラインハルトの喘ぎ声が、キルヒアイスを刺激する。今まで、抑えていたものが解き放たれるように、キルヒアイスは夢中でラインハルトの唇を貪った。
幾夜も隣で見た白い素肌に触れ、その滑らかな感触を愛しむように手を這わせる。
「……ダメ…キルヒアイス、もう立ってらんない……」
頬を赤く染めて、瞳を潤ませたラインハルトが懇願する。
「……こっちへ」
キルヒアイスに手を引かれてベッドに横になる。昨日まで同じベッドに入る事など、何とも思わなかったのに、今は恥ずかしくてキルヒアイスの顔を見る事が出来ず、ラインハルトは硬く目を閉じた。
だが、それが返って、体中を這うキルヒアイスの手の動きに敏感になり、理性を保つのに苦労した。
「あっ、キルヒアイス……」
キルヒアイスの舌が、ラインハルトの唇から離れ、耳や首筋を伝って、胸の突起のところまで下りてくると、ラインハルトは我慢しきれず、理性を手放した。
「あっああん…キルヒ…ス」
キルヒアイスの脳裏に昨夜の事が蘇ってくる。自分の唾液で光っていたラインハルトの乳首。今は目の前にあり、思う存分味わえた。キルヒアイスは、昨日食べ損ねた分を取り戻すように丹念に賞味していた。やがて、キルヒアイスの手がラインハルトの分身を捉え、すぐさまキルヒアイスの口に含まれた。
「はうっ、キッキルヒアイス」
一瞬、躊躇したラインハルトだったが、丹念に自分を愛撫するキルヒアイスの顔を見ていると、何だか、この勢いでキルヒアイスが最後までする気じゃないのかと、急に不安になってきた。
ふと、キルヒアイスは視線を感じて顔を上げた。頬を赤く染め、瞳を潤ませたラインハルトと一瞬目が合ったが、ラインハルトの方が慌てて視線を逸らした。
「……大丈夫ですよ。触りあうだけですよ」
ラインハルトの不安を汲み取ったキルヒアイスが、少し苦笑いして言った。心の内が見透かされたようで、ラインハルトは更に頬を赤く染めた。
「……もう、ダメ…キルヒアイスいきそう」
今にも達しそうなほど、張り詰めたラインハルトの分身を、キルヒアイスは愛情込めて舐め上げた。
「んっ!ああんっ」
口いっぱいに広がる、ラインハルトの総てを飲みほして、キルヒアイスはラインハルトの傍らに横になった。肩で息をするラインハルトを抱きしめて、呼吸が整うまで金髪を撫でた。やがて、躊躇いがちにラインハルトの細い指が、キルヒアイスのズボンのファスナーにかかる。
脱がせやすいように、少し腰を浮かして手伝うと、下着の中で十分存在を主張するキルヒアイス自身が現れた。ラインハルトは恐る恐る下着の上から触れてみる。そこは触れられると益々硬さを増し、ラインハルトは驚いて手を引いた。
自分の頭上でキルヒアイスが、クスリと笑う声が聞こえる。
キルヒアイスは自ら下着を脱ぎ去ると、静かに手を伸ばして、ラインハルトの引いた手を握ると、そのまま自分の股間へ導いた。
ラインハルトは緊張しながら、両手でキルヒアイスの分身を握ってみた。このままどうするべきかと考えていると、また、頭上でクスリと笑う声が聞こえる。
「ダメですよ、ちゃんと動かさなきゃ」
恥ずかしさで、ラインハルトの体が熱くなった。言われるままに、不器用に手を動かしてみると、キルヒアイスのそこは、別の意識を持ったように首をもたげた。頭上でキルヒアイスの吐息が、徐々に荒くなって行くのが分かる。
キルヒアイスの鼓動が早くなり、胸の響きが触れたところから伝わってくると、ラインハルト自身、先ほどの感覚が呼び起こされ、キルヒアイスも自分によって快感を得ているのだと思うと、何だか幸せな気持ちになって来た。
ラインハルトの背中を抱いていた手が再び動き、肩甲骨の辺りや、首筋を撫で始めた。耳の淵を舐めながら、キルヒアイスは自分の絶頂が近い事を知った。
「……ラインハルトさま…もう少しでいきそうです」
少し慣れたのか、ラインハルトの指の動きも滑らかになってきた。キルヒアイスは背中を撫でていた手を下げて、ラインハルトの滑らかな双丘に触れた。その瞬間、ラインハルトの脳裏に先刻の問答が蘇ってきた。
キルヒアイスは…い…挿れるつもりか?……
ラインハルトの頭の中は真っ白になり、当然手の動きは固まった。後に残るは、虚しく取り残されたキルヒアイスの分身……。
「?ラインハルトさま……」
いく事はいったのだが、ここぞと言う瞬間に手放され、キルヒアイスは何とも中途半端な達し方で果ててしまった。
「あっ、いやその…お尻に触られると、さっきの話思い出しちゃって…ごめんキルヒアイス…」
申し訳なさそうにラインハルトが言うと、キルヒアイスは呆れ果てたように、大きな溜息をもらした。
「だから、触りあうだけって言ったでしょうに。まったく、あなたって人は……」
神妙にしているラインハルトを見ていると、よほどセックスの話で衝撃を受けたのだろうと、キルヒアイスの方も苦笑いをせざるをえなかった。
「ま、お互い気持ちのいい思いはした訳ですから、ほら、ラインハルトさまそんなにしょげないでください」
「う、うん。キルヒアイス……今度はちゃんとするから……」
「はいはい」
ここまで言われると、キルヒアイスにはもう笑うしかなかった。本当にこの人はこれでも18なのかと、改めて“性身年齢”を疑いつつ眠りについた。
結局のところ、損をしたのか得をしたのか、良く分からないキルヒアイスだったが、いつか自分の腕の中で、気持ち良さそうに喘ぐラインハルトの姿を想像しつつ、取り敢えずあのニブチンとここまで来たことで今夜は良しとした。