火 横光利一

横光利一

初秋的夜晚,雌水獭在檐廊门槛的沟槽里轻轻摇动着触角。在做针线活的母亲面前,靠在长火盆上的孩子渐渐垂下了头。刚碰到铁罐的手,半睁着眼急忙抬起头。

“该睡了。”

母亲一边缝着缝,一边看着孩子说。子默默地睁大眼睛,又开始用手指转动铁罐盖的把手。母亲又说。

“明天再迟到的话会被老师骂的。”

孩子还是沉默着。过了很久,

“真想睡觉啊。”他说。

“是啊,不是叫睡觉吗。”

“不要。”

“真是个可爱的孩子啊,早睡了吧。”

孩子站起来,压在母亲的肩膀上,暂时安静了一会儿,然后两脚踩在榻榻米上跳了起来。母亲蹲在前面说:“好重啊,这个,用针做。”看着肩上的孩子说。孩子再次安静下来。

“是啊,妈妈,好困啊。”

“你就睡吧,好沉好沉。”

孩子说了声“不不”,从妈妈肩上慢慢滑下来,把脸埋在膝盖上。

“危险啊,针头还扎着呢。”

母亲把膝上的布块往前推了推。从孩子的头顶到脖子上用一只手抚摸着,低声说:

“真的要睡了,哎。”他说。

“妈妈也不睡呀。”

“人家都笑了,都九岁了还一个人睡。”母亲沉默了一会儿,说:“你的脑袋长得真漂亮。”他喃喃地说。

母亲和孩子都沉默了。隔壁传来了含着酒意的高亢声音。黄昏前,孩子看到邻居的主人在井边宰鸡。

“妈妈,隔壁的阿花正在吃鸡呢。”孩子抬头看着母亲说。

“不要说那种话。”母亲说。隔壁后院厚重的纸拉门拉开的声音响起,附近的兼助满脸通红地站在檐廊处。

“里子小姐,请吃大餐吧,快请吧。”男人说着,像抱孩子一样伸出双手晃了晃,摇摇晃晃的。

母亲微笑着说:“啊,太好了。”他说。

“啊,不快点可不行啊。”

“有这孩子在,以后我还会再来的。”母亲说。

“什么呀,让米小姐一个人睡就好了,喂,米小姐,一个人睡呢。”男人微微探出头来。

孩子别过脸去,默默地抬头看着母亲的脸。

“你一个人睡?”母亲问。

孩子摇了摇头。

“你给我说了那么久,你一个人睡吧,哎,妈妈马上就回来了。”

“好饲料好饲料,又不是婴儿。”男人说:“嘿咻。”说着,他转身往回走。母亲把孩子的头从膝盖上抬起说:“等一下。”说着笑着走向檐廊。然后说:“木屐没有了。”低语道。

“木屐之类的东西怎么能放进去呢?”

男人说着抓住她的手腕转过身去,双手抱着她的腿迈开脚步。母亲在男人背上说:“危险,危险。”他笑着说。

孩子跑到檐廊上,从窗套上靠了出去。这时,他看到双腿被架在男人背上的母亲,在隔壁家院子的正中央摇摇晃晃地走着。孩子恨透了男人。而且觉得母亲好像做了一件非常不好的事。

“正好,兼先生。”

邻家红着脸的主人笑着说,旁边的主妇用手遮住掉了的门牙,浅浅地笑了。

孩子走进房间,把纸拉门的一端贴在胸前,舔了舔手指,在纸拉门上钻了好几个洞。我已经不困了。

过了一会儿,孩子又从门袋处偷偷地往邻居家的院子里窥视。我看见母亲坐在兼的旁边,捧着酒壶。孩子以为母亲已经转向自己了,于是朝那个方向看了很长时间。母亲一直盯着拿着酒壶说话的主人的脸。并且不时地动下颚。但是不管过了多久,他都没有朝孩子的方向看。

孩子很伤心。然后把脸从窗套里缩回“妈妈。”叫道。

“好的好的。”

母亲这样说。过了一会儿,孩子觉得母亲好像说了些什么回来了,于是跑到火盆边。

母亲眼眶微微泛红地回来说:

“还没睡呢。”微笑着说。孩子默默地拉着母亲的手拍了拍。

“快睡吧,明天上学又要迟到了。”

孩子噘起嘴咬着母亲的手指。母亲“好痛”地叫了一声,把手缩回来,看了看指尖说:“哎呀,这孩子。”他说。端坐在那里的孩子端坐在那里,默默端坐在母亲那里。还有,“妈妈的傻瓜。”说着,他抓住母亲的手,想再咬一次。母亲推着孩子的背说:“收拾好这里马上睡觉,你就往前睡吧,你真聪明。”说着,把孩子带到床边。

那天刺绣老师从城里回村里来晚了。

六年前,米的母亲从去了美国的丈夫那里得知她生病的消息后,半年多没有汇款,但她还在学习刺绣,亲戚们对此说三道四。但是她说,即使花一些钱,只要记住这个,在意外的时候就能派上用场,所以继续学习。

刺绣老师每个月都从遥远的城市到村里来一次。米之村只有母亲在学习刺绣。刚开始学这个的时候,无论在哪里,都必须约定在那个学习期间让老师住在自己家里。米家也遵守了这个约定。一开始是十五岁的米的姐姐和母亲学的。但是,随着父亲不再寄钱来,母亲决定让女儿去市里当见习护士,自己一个人继续学习。

米从那时起就知道自己家变得非常贫穷了。但是,不知道哪里比以前更穷了。而且,除了姐姐没有和他住在一起之外,生活的样子和以前没有任何变化。

米想见姐姐。特别是一想起两人吵架时的情景,就迫不及待地想见面。但是,他给姐姐写信的时候,总是不忘在回家的时候给她买包和小刀,但绝不会写“好想见面”或者“快点回去”之类的话。之所以这么说,是因为她觉得羞于表达自己的爱意,而且也不好意思让母亲看到这件事。

走出学枚的门时,米拾起了白墨。回去的路上,他边走边寻找适合写乐书的地方。土藏的墨壁最具魅力。但是觉得墙壁太漂亮了,画了一寸左右的线就满足了。

来到村头,看到沿着道路一侧流淌的小河上的御阴石桥时,米觉得这里最适合写作。于是,我先挑一个看起来比较光滑的地方,拼命地写了一个“书”字。草鞋代替了擦布。他见短短的白墨磨少了,抬眼望了一会儿天空。

“和阿金、老冈一起昨晚。”

写道。他没有写下一个。因为昨天晚上醒来的时候,在漆黑的自己身边,母亲和男人低声交谈,说不定是一场梦呢。但是,男人坚硬的手轻轻用力按住自己的手,又马上缩回去,这确实不是梦。除此之外,他什么都不记得了。

他站起来要离开石桥上,走了十步左右,又往回走,用草鞋把桥上的字擦掉了。又试着写了一次,还是擦掉了。然后信步走起来,突然跑起来。他一跑出去,就把白墨高高地扔在头上,摔得粉碎。然后又溜达了五六步,跑了起来。

一进村子就有一家染坊。米看到那里的雨滴上积着美丽的沙子,就蹲下去用双手捧起沙子哗啦哗啦地扔下去。最后把双腿伸了出去。然后,冈先生拨开大沙粒,用食指写下:昨晚的事已经不再是梦了。我突然想揍母亲一顿。这时,他在沙子里发现了透明的桃红色芝麻沙粒,他用手掌擦了擦,仔细端详,觉得那一定是什么珍贵的石头。

“钻石!”

想到这里,我和他都觉得自己像一颗真正的钻石。这才发现是钻石。他把它穿过看了看,又放在原来的沙子上。但是,看了一会儿和外面的沙子混在一起快要看不清了,于是赶紧又拿了起来。眼睛有点痛。

他渐渐高兴起来了。可以买小刀,可以买包,我想。可是,一想到姐姐,小刀和提包就飞走了,我就觉得姐姐只要带着这颗钻石就能回家了。我再也坐不住了。

这时,比米大三岁的名叫辰的孩子回来了。

“这可是钻石啊。”

米递出一粒沙粒,立刻转到背后。

“胡说八道。”辰说。

美国不得不拿出金刚石。

辰拿起沙粒看了一会儿

“有这种钻石吗?”

他说。然后,从突然伸出一半手的米旁边跑了出来。米追了三四米远,突然脸色苍白地停下脚步大声哭了起来。

辰看了一眼米,做出扔进沟里的样子,把钻石放在路边的木材上,红了眼就回去了。

米看不见辰的身影后,慢慢地朝木材的方向走去。金刚石在木材的浅浅的裂缝中呈现出双重。他把它放在手掌上,笑了起来。

回到家后,他没有进去,而是直接绕到后面,把金刚石浅浅地丢进水池边的潮湿泥土里,那里填满了水槽旁的接水槽。因为那里生长着很多叶兰,所以我以其中一根茎为中心画了一个小圆圈。他想,这样下去钻石很快就会变大。而且我觉得这里不浇水也没关系。

这天傍晚,米终于敲坏了昨天发现的柏树根部的蜂巢,回来了。这时母亲从里面出来,把鱼店的存折交给他,叫他去买牛肉鑵詰。米觉得妈妈的脸有点红。出门的时候发现了一双院子里不常见的漂亮木屐。他以为那是像榻榻米一样的木屐,正要穿上,母亲说:“这个。”收了收下巴。

米家和鱼店是亲戚,也很熟悉。于是,鱼店的老板在米拉开纸拉门之前,心想叔叔一定会像往常一样笑着,于是往里看了看,只见一个人一脸可怕地盯着院子里的同一个地方。米心想今天不能坐在腿上了,但姑父一打开纸拉门,立刻笑眯眯的。

“鑵詰,今天是牛肉店。”

米这么一说,叔叔笑着站起来,把手伸向鑵詰架子说:“怎么啦,老师来啦。”他说。

米叶家院子里的榻榻米似的木屐应该是刺绣老师的吧。“怎么样我不知道。”回答说。

姑父张着鑵詰的嘴说:“我给你洗澡吧。”米说:“住手。”他说。于是叔叔突然问道:“怎么样,米,你喜欢老师还是爸爸,嗯。”他问道。

“不知道。”

米仰面躺在叔叔的膝盖上说,然后想叔叔的鼻孔为什么是黑的呢?

“不知道,说这种蠢话,爸爸已经要娶媳妇了,怎么办?”叔叔看了看。

米的肚子呈波浪状蠕动着说:“不对,不对。”他说。但我觉得叔叔说的似乎是真的,我觉得父亲不会再回来了。只要能和母亲在一起,父亲回来不回来我就不会在意了。这时,默默捏着叔叔手上皮肤的他,忽然担心自己知道母亲昨晚和男人睡了,会不会在自己不在家的时候死去。其中眼泪流出来了。于是,我穿上草鞋,正准备默默地回去的时候,叔叔说:“什么米啊。”他说。但他还是一声不响地跑了出去。

回家的时候妈妈从米手里接过鑵詰说:“你这不是上次还穿的衣服吗?”

端坐在那里。鑵詰的汁液从他衣服的胸部到腹部,弄脏了飞沫的白色部分。

原以为母亲一看到自己就会抱着自己的米,不知为何突然觉得自己好像在别人家的母亲身边。于是,周身乱转,做出一副蹬踏东西的样子,打算环视母亲走出去。“阿通呢?”母亲问。米知道忘带了,但悲伤起来,默默地走到外面。不过,他马上想起钻石的事,便绕到屋后,在暮色笼罩的叶兰旁蹲下来,用手指轻轻按了按白天画好的小圆圈。过不了多久,姐姐就会回来,家里人就不用再过拮据的生活了。但一想到那不是钻石,又觉得那不是钻石,不禁有些落寞。

外面一片漆黑之后,我进了屋里。来的果然是刺绣老师。米那天晚上的晚饭的样子和平时不一样。饭桌被拿到里屋去,母亲一直待在老师身边,所以他在厨房的榻榻米上盛起一人份的冷饭桌吃起来。一开始我想吃牛肉,为了不在母亲端来之前把饭吃完,慢慢地拖了很晚才开始吃,结果不知几天肚子就鼓起来了。

他吃完的时候,母亲从里面走到米旁拿盘子。

“咸菜(这里)呢?”米问。

“嗯?嗯。”母亲说。

“咸菜在哪里(这里哪里),妈妈。”米稍稍提高了嗓门,妈妈说:“好了好了,现在给你。”说着往里面走去。可是等了又等,母亲就是不出来。其中米已经忘记了咸菜的事,弄湿了筷子的前端,在地板上飞快地画起了士兵的画来。为什么无论画多少次帽子都变小了呢?我很苦恼。

饭桌和脏餐具从里面回到厨房。鑵詰的牛肉已经从盘子上消失了。米很想问母亲牛肉怎么了,但觉得如果被里面的客人听到,就不好意思了。不久,母亲又被客人抢走了。

米放弃了,默默地拿出纸石板,趴在地上画起画来。一页一页地从前面的军人开始,第二页画了拉粪的马。但是,要不要高高扬起马尾辫呢?最后,他装上一条细长的尾巴,像瀑布一样弯弯曲曲。接着画姐姐的脸。下面颊鼓起的圆轮廓画了好几次,然后抹上眼鼻,最后在鼻梁正中打了一颗黑痣。然后在那张南瓜般的脸旁边写上“内先生的脸”。望着她的脸,我发现姐姐黑子是黑色的,而画是白色的。我想把它弄黑会更像姐姐的脸,但我不知道怎么把它弄黑,所以就这样放着了。

九点一敲,米就困了。里面传来母亲的笑声。平时总是睡在里面的他,不知道今晚睡哪里好。于是,我又想起昨晚醒来时母亲和男人的耳语。然后,开始担心放学回家的路上在石桥上写的乐书有没有被擦掉。那东西好像消失了,又好像没有消失。

妈妈从里面出来的时候,

“睡哪儿呀?”

米问。

“啊,对了,你睡吧。”

母亲说完立刻折回里屋去了。在里屋说:“我先走了。”说着,他把被子拿到米旁边,走了出来,点亮椭圆形的灯笼。蜡烛约有四寸长。

“拿着前灯上二楼去。”

母亲说。孩子上了楼梯,母亲抱着被子跟在后面上楼。

母亲铺被褥的时候,孩子提着灯笼不让灯光熄灭。“妈妈也睡吧,好可怕。”孩子说。

“我马上就来!马上就来!”母亲说。孩子没有再说什么。妈妈爬到梯子中间说:“睡觉的时候把灯关掉,哎。”他说。孩子说:“嗯。”说着,我把亮着的灯笼折起来放在枕边,跟着母亲下了车。然后往花盆里注满冷铁瓶热水,再次端上二楼,放在枕边的灯笼旁。穿上睡衣钻进被窝,孩子俯伏在床上,像喝河水似的喝了一口盆里的热水。然后,我想确定一下自己和母亲的被褥的领域,便开始寻找母亲的木枕,可是没有找到。说着,把身体靠到被子一侧,又喝了一口盆里的热水。他把额头贴在枕头上,下面传来母亲的笑声。我想母亲什么时候会来睡觉,但我下定决心,在母亲来之前,我要喝一口,喝很久,然后减少盆里的热水。热水第三口少了一分。可是第四口的头怎么也抬不起来。

那天夜里一点多,孩子醒了。这时,他发现穿着睡衣的母亲正坐在被子上紧紧地抱着他。刺绣老师拿着油灯默默地站在母亲身后。四周烟雾缭绕。而且,以烧得黑黑的灯笼为中心,枕边榻榻米烧焦的黑色部分在孩子睡过的枕头旁边蔓延开来。花盆倒在烧剩的孩子的衣服上。孩子闭着眼睛望着烧焦的榻榻米。然后摇了摇头,把脸贴在母亲敞开的衣领上,用沙哑的声音说

“早点睡吧。”

说着又闭上眼睛。母亲沉默着。其中,她的眼睛湿润了。

已经不需要煤油灯了吗?”

老师说。母亲还是默不作声地向前挪动身体。

老师也默默地下楼去了。房间里暗了下来,母亲更加用力地抱着孩子。过了很久,

“是虫子告诉我的。”

小声嘟囔着。孩子已经开始打鼾了。

横光利一

     一

 初秋の夜で、雌(めす)のスイトが縁側(えんがわ)の敷居(しきい)の溝の中でゆるく触角を動かしていた。針仕事をしている母の前で長火鉢(ながひばち)にもたれている子は頭をだんだんと垂れた。鉄壜(てつびん)の手に触れかかると半分眼を開けて急いで頭を上げた。

 「もうお寝。」

 母は縫目(ぬいめ)をくけながら子を見てそういった。子は黙って眼を大きく開けると再び鉄壜の蓋(ふた)の取手(とって)を指で廻し始めた。母はまたいった。

 「明日また遅れると先生に叱られるえ。」

 子はやはり黙っていた。そして長らくして、

 「眠(ねむ)たいわア。」といった。

 「そうやでお眠(ねむり)っていうのやないの。」

 「いやや。」

 「お可(か)しい子やな、早(は)ようお眠んかいな。」

 子は立上って母の肩の上へ負われるようにのしかかると、暫(しばら)く静(しずか)にしていたが、その中(うち)に両足で畳を蹴(け)り飛び上った。母は前へ蹲(かが)むようにして「重たいがな、これ、針でつくえ。」肩の子を見向きながらいった。子は再び静になった。

 「ええ、お母(か)さん、眠たいわア。」

 「そやでお眠たらええやないか、重たい重たい。」

 子は「いやーや」というと母の肩から辷(すべ)り下(お)りて膝(ひざ)の上へ顔を埋めた。

 「あぶないがな、針が刺(ささ)っているやないか。」

 母は膝の上の布切(きれ)を前の方へ押しやった。子の頭の頂(いただき)から首条(くびすじ)へかけて片手で撫手下(なでお)ろしながら低い声で、

 「ほんとにもうお寝、え。」といった。

 「お母さんも寝ないや。」

 「人が笑うわ、九つもなってるくせに一人で寝んなんて。」そして母は些(ち)っと黙っていたが、「お前の頭はほんとうにええ格好や。」と呟(つぶや)いた。

 母も子も黙っていた。隣家から酒気を含んだ高声(たかごえ)が聞えて来た。子は夕暮前に、井戸傍(いどばた)で隣家の主人が鶏(とり)をつぶしていたのを眼に浮べた。

 「お母さん、お隣りのはな、鶏を食べていやはるのや。」と子は母を見上げていった。

 「そんな事をいうものやない。」と母はいった。隣家の裏庭の重い障子(しょうじ)の開く音がすると、縁側の処(ところ)へ近所の兼助(かねすけ)という男が赤い顔をして立っていた。

 「お里(さと)さん、御馳走(ごっそ)だすぜ、さアお出(い)でやす。」そう男がいって子供を抱く時のように両手を出して一度振るとひょろひょろとした。

 母は微笑(わら)って「え、大きに。」といった。

 「さア、早ようやなけりゃ駄目(いけ)まへんぜ。」

 「この子がいますで後ほどまたおよばれしますわ。」と母はいった。

 「何アに、米(よね)さんは一人寝せときゃええさ、なア米さん、独人(ひと)り寝てるわのう。」と男は顔を少し突き出した。

 子は男から顔をそむけて黙って母の顔を見上げた。

 「お前ひとり寝てる?」と母は訊(き)いた。

 子は顔を横に振った。

 「あんなにいうておくれはるのやで、お前ひとり寝てな、え、直(じ)きにお母さんが帰って来るで。」

 「好(え)えさ好えさ、赤子(あかご)じゃあるまいし。」そういうと男は「どっこいしょ。」と背後へ反(そ)り返(かえ)った。母は子の頭を膝から起して「待っておい。」といって笑いながら縁側の方へ立った。そして「下駄(げた)がないわ。」と呟いた。

 「下駄のような物入(い)るものか。」

 と男はいうと彼女の手首を掴(つか)まえて背を向けると両手で彼女の足を抱いて歩き出した。母は男の背の上で「険(あぶな)い険い。」と笑い声でいった。

 子は縁側へ走り凭(よ)って戸袋(とぶくろ)からのり出した。すると男の背上で両足をかかえられている母が隣家の庭の真中でひょろひょろしているのを見た。子は男が憎くてならなかった。そして母が非常に悪いことをしているような気がした。

 「丁度好えぞ、兼さん。」

 赤い顔をした隣家の主人がそういって笑うと、傍の主婦は脱けた前歯を手で隠すようにして淡笑(うすわら)いをした。

 子は室(へや)へは入って障子の片端を胸に押しつけると、指を舐(な)めてぷすぷすと幾つも障子に穴をあけた。もう眠たくなかった。

 暫くして子は戸袋の処からまた隣家の庭をソッと覗(のぞ)いた。母が兼の横に坐って銚子(ちょうし)を捧(ささ)げるようにしているのが見えた。子はもう母が自分の方を向くだろうと思ってその方を長らく見ていた。母は銚子を持ったまま何か話している主人の顔を見続けていた。そして時々顎(あご)を動かした。しかし何時(いつ)までたっても子の方を向かなかった。

 子は悲しくなった。で、顔を戸袋からひっこめて「お母さん。」と呼んだ。

 「はいはい。」

 そう母はいった。ほど経(へ)て母が何かいって帰ってくるらしいけはいがしたので子は火鉢(ひばち)の傍へ走り込んだ。

 母は眼の縁(ふち)を少し赤くして帰って来ると、

 「まだ眠てやないの。」と微笑っていった。子は黙って母の手を引張って叩(たた)いた。

 「さアもう寝な。また明日学校が遅れるえ。」

 子は口を尖(と)がらせて母の手の指を咬(か)んだ。母は「痛ッ」といって手を引っこめた、そして些(ちょ)っと指頭(ゆびさき)を眺めてから「まアこの子ったら。」といった。子は黙って母を睥(にら)んでいた。そして、「お母さんの阿呆(あほ)。」というと母の手を掴んでもう一度咬もうとした。母は子の背中を押すようにして「此処(ここ)をかたづけたら直ぐ寝るでなお前は前(さき)へ寝てなえ、ほんとにお前は賢いえ。」そういうと子を寝床の方へ連れて行った。

     二

 その日は刺繍(ししゅう)の先生の市(まち)から村へ廻って来るのが遅れていた。

 米の母は、六年前にアメリカヘ行った良人(おっと)から病気という報(しら)せを受けとって以来半年余り送金が絶えているにもかかわらず、まだ刺繍を習っているということについて、親戚側からとやかくいわれた。しかし彼女は、少々の金を費(ついや)してもこれさえ覚えておけばまさかの時に役立つといって習い続けた。

 刺繍の先生は遠い市から月に一回欠(かか)さず村へ廻って来た。米の村では母だけが刺繍を習っていた。これを習う最初にあたって先ず、何処(どこ)でも、その習う期間は先生を自分の家に宿泊させる約束をしなければならなかった。米の家でもその約束を守っていた。初めのほどは、十五になった米の姉と母とが習っていた。しかし、父から送金が絶えると共に母は娘を看護婦の見習生(みならいせい)として市へやって自分独り習い続けることにした。

 米はその時から自分の家が非常に貧しくなったのだと知った。しかし、何処が前よりも貧しくなったのかは分らなかった。また、ただ、姉が彼と一緒の家にいないという事以外に生活の様子は前とは少しも変っていなかった。

 米は姉に逢(あ)いたいと思った。殊に二人が喧嘩(けんか)した時のことを想い出すと溜(たま)らなく逢いたくなった。しかし彼は姉へ手紙を出す時、かばんと小刀(こがたな)とを帰りに買って来てくれとは必ず忘れずにいつも書いたが、逢いたくてならぬとか、早く帰ってくれとかは決して書かなかった。というのは、自分の愛情を現すことを羞(はずか)しく思いもしたし、また、そのことを母に見られるのをきまり悪く思ったからでもあった。

     三

 学枚の門を出る時、米は白墨を拾った。帰る途々(みちみち)、彼は何処か楽書(らくがき)をするに都合の好さそうな処をと捜しながら歩いた。土蔵(どぞう)の墨壁は一番魅力を持っていた。けれども余り綺麗(きれい)な壁であると一寸(いっすん)ほどの線を引いて満足しておいた。

 村端まで来て、道の片側に沿って流れている小川にかかった御陰石(みかげいし)の橋を見た時、米は此処が最も楽書するのに適していると思った。そして最初に滑(なめら)かそうな処を撰(えら)んで本という字を懸命に書いてみた。草履(ぞうり)は拭物(ふきもの)の代りをした。彼は短い白墨が磨(す)り減(へ)って来ると上目(うわめ)をつかって、暫く空を見ていてから

 「カネサント、オカサントユウベ」

と書いた。彼はその次を書かなかった。なぜかというと昨夜眼を醒(さま)した時、真暗な自分の横で母と男とが低い声で話していたのはもしかしたなら夢であったのかもしれぬと思ったから。しかし、男の堅い手がそっと自分の手を強く圧(おさ)えて直ぐひっこめたのは確(たしか)に夢ではなかったと思った。そして、彼はそれ以外に何も記憶になかった。

 彼は立ち上って石橋の上から去ろうとした、が、十歩ほど行くと後へ戻って橋の上の字を草履で消した。そしてもう一度書いてみたけれどもやはり消した。後はぶらぶら歩き出すと急に走り出した。走り出ると反(そ)り返(かえ)って白墨を高く頭の上へ投げて踏(ふ)み潰(つぶ)した。そしてまたぶらぶら五、六歩あるくと走り出した。

 村へは入った処で染物屋(そめものや)があった。米はそこの雨垂落(あまだれおち)に溜っている美しい砂を見ると蹲(しゃが)み込(こ)んでそれを両手で掬(すく)ってはばらばら落してみた。終(つ)いには両足を投げ出した。そして、大きな砂粒をかき去(の)けると人差指でオカサンハ、と書いた。もう昨夜の事は夢だとは思えなかった。急に母を擲(なぐ)りつけたくなった。その時彼は砂の中に透明な桃色をしたゴマの砂粒を見付けた、彼はそれを手の平で拭(ふ)いてよく眺めていると何か貴い石にちがいないと思った。

 「金剛石(ダイヤモンド)や!」

 フと彼はそう思うとほんとうの金剛石のような気がした。するといよいよ金剛石だと思われた。彼はそれをすかして見てからもとあった砂の上へ置いてみた。しかし、暫く見詰(みつ)めていると外(ほか)の砂と入り交って分らなくなりそうになったので直(いそ)いでまた取り上げた。眼が些っと痛かった。

 彼はだんだん嬉しくなって来た。小刀が買える、カバンが買える、とそう思った。が、直ぐその後に姉のことを思い浮べると、小刀もカバンも飛び去って、ただこの金剛石を持っているということばかりで姉が家へ帰って来られるような気がして来た。もうじっとしていられなかった。

 そこへ米より三つ上の辰(たつ)という子が帰って来た。

 「金剛石やぞ、これ。」

 米は些っと砂粒を差し出すと直ぐ背後へ廻した。

 「嘘(うそ)いえ。」と辰はいった。

 米は金剛石を見せずにはいられなかった。

 辰はその砂粒を取ると暫く眺めていて

 「こんな金剛石あるか。」

 といった。そして、不意に半分手を差し出している米の傍から、駆(か)け出(だ)した。米は、三、四間(けん)後を追いかけたが急に真蒼(まっさお)な顔をして走り止まると大声で泣いた。

 辰は米を見返って溝の中へ捨てる真似をして道傍(みちばた)の材木の上へ金剛石を乗せて、赤目を一度してそのまま帰った。

 米は辰の姿が見えなくなると徐々(そろそろ)材木の方へ歩いて行った。金剛石は材木の浅い割目の中で二重に見えていた。彼はそれを掌(てのひら)の上へ乗せると笑えて来た。

 家へ帰ると彼は中へは入らずに直ぐ裏へ廻って、流し元の水を受ける槽(おけ)を埋めた水溜(みずため)の縁の湿っぽい土の中へ金剛石を浅くいけ[#「いけ」に傍点]た。そこには葉蘭(はらん)が沢山生(は)えていたので、その一本の茎を中心に小さい円を描いておいた。彼は、こうしておけば直きに金剛石が大きくなるにちがいないと思われた。それに此処は水をやらなくてもいいと思った。

     四

 その夕方、米は昨日見付けた柏(かしわ)の根株(ねかぶ)の蜂の巣を遂に叩(たた)き壊(こわ)して帰って来た。そこへ母が奥から出て来て魚屋の通帳を彼に渡して牛肉の鑵詰(かんづめ)を買って来いと命じた。米は母の顔が少し赤いと思った。そして外へ出る時庭に見馴(みな)れない綺麗な下駄を一足見付けた。彼は畳のような下駄だと思って履(は)こうとすると、母は「これ。」と顎を引いた。

 米の家と魚屋とは親戚であったし、馴れていた。それでそこの魚屋の主人は米は障子を開ける前に、きっと叔父(おじ)さんは常日(いつ)ものように笑っているだろうと思って覗いて見たが、独人(ひと)りで恐い顔をして庭の同じ処を見詰めていた。米は今日は膝の上へ乗れないと思ったが、障子を開けると直ぐ叔父はニコニコした。

 「鑵詰、牛肉のや今日は。」

 米がそういうと叔父は笑いながら立って鑵詰棚へ手を延ばして「どうしたのや、先生が来たんやな。」といった。

 米は家の庭にあった畳のような下駄は刺繍の先生のだなと思った。「どうや知らん。」と答えた。

 叔父は鑵詰の口を開けながら風呂(ふろ)へ入れてやろうかといった。米は「やめや。」といった。すると叔父は突然、「どうや米、お前先生とお父(とっ)つァんとどっちが好きや、うん。」と訊(き)いた。

 「知らんわい。」

 米は仰向(あおむ)きになった叔父の膝の上へ寝そべってそういった、そして叔父の鼻の孔(あな)は何(な)ぜ黒いのだろうと考えた。

 「知らん、阿呆なこといえ、お父つァんはもう嫁さん貰(もろ)うてござるぞ、どうする、ん?」と叔父は覗き込んだ。

 米は腹を波形に動かして「ちがうわい、ちがうわい。」といった。しかし叔父のいう事は真実のように思われて、もう父は帰って来ないような気がして来た。母とさえ一緒にいる事が出来れば父の帰って来る来ないはそう心にかからなかった。すると、黙って叔父の手の皮膚を摘(つ)まみ上(あ)げていた彼は急に母が昨夜男と寝た事を自分が知っているのを気使って自分の留守に死んでいはすまいかと思われた。その中(うち)に涙が出て来た。で、草履を周章(あわ)ててはいて黙って帰ろうとすると、叔父は「何んじゃ米。」といった。けれど彼はやはり黙って表へ出ると馳け出した。

 家へ帰った時母は鑵詰を米から受け取って「お前まアこの間着返(きが)えた着物やないか。」

 と睥(にら)んだ。彼の着物の胸から腹へかけて鑵詰の汁が飛白(かすり)の白い部分を汚していた。

 母が自分を見たなら抱いてくれるとばかり思っていた米は何(な)ぜだか急に他家の母の傍にいるような気がした。そして、身体をあちこちに廻しながら物を踏(ふ)み蹂(にじ)るような格好をして母を見い見い外へ出て行こうとした。「通(かよ)いは?」と母が訊いた。米は忘れて来たのを知ったが悲しくなって来たので黙って表へ出た。しかし、直ぐ金剛石のことを思い出すと裏へ廻って行って、夕闇(ゆうやみ)の迫った葉蘭(はらん)の傍へ蹲(うずくま)って、昼間描いておいた小さい円の上を指で些(ち)っと圧(おさ)えてみた。すると、間もなく、姉が帰って来て、家の者らがちりちりに生活しなくてもいいようになると思われた。しかし金剛石ではないと思うと金剛石ではないような気がして淋しくなった。

 外が真暗(まっくら)になってから家の中へ入った。やはり来ていたのは刺繍の先生であった。米のその夜の夕餉(ゆうげ)の様は常日とは変っていた。餉台(ちゃぶだい)は奥の間へ持って行かれたし、母が先生の傍(そば)へつききりなので彼は台所の畳の上で独人(ひとり)あてがわれた冷(ひ)やっこい方の御飯をよそって食べ始めた。初めの裡(うち)は牛肉を食べたかったので、母が持って来てくれるまでに御飯を食べてしまわないようと少しずつ遅くかかって食べ出したが、何日(いつ)の間(ま)にかお腹が膨(ふく)れて来た。

 彼が食べ終った頃、母が奥から米の傍へ皿を取りに出て来た。

 「お漬物(ここ)は。」と米は訊(たず)ねた。

 「うむ? うむ。」と母はいった。

 「お漬物何処(ここどこ)、お母さん。」と少し米が大きな声を出すと母は「はいはい、今あげますよ。」といって奥へ行った。しかし幾ら待っても母は出て来なかった。その中(うち)に米はもう漬物(つけもの)の事を忘れてしまって箸(はし)のさきを濡らしては板の間へせっせと兵隊の画を描き初めた。どうしてこう幾度画いても帽子(ぼうし)が小さくなるのだろうと苦しんだ。

 奥から餉台や汚れた食器が台所へ帰って来た。鑵詰の牛肉はもう皿の上から消えていた。米は牛肉をどうしたかと母に訊ねたかったが、そのことを奥の客に聞かれては羞(はずか)しいと思った。そして、間もなく母は再び客に奪われた。

 米はあきらめて黙って紙石盤(かみせきばん)を出して来ると腹這(はらば)いになって画をかき始めた。一頁に一つずつ先ず前の軍人から始めて二枚目に糞(くそ)を落している馬を描いた。しかし、馬の尾を高く上げていいかどうかと迷わされた。そして、結局、細い勢の好い滝のような曲った尾を付けて納得した。次には姉の顔を画いた。下頬(したほお)の膨らんだ円い輪廓(りんかく)を幾度も画き直してから眼鼻をつけて最後に鼻柱の真中へ黒子(ほくろ)を一つ打った。そうして出来上った南瓜(かぼちゃ)のような顔の横へ「ネーサンノカオ」と書いておいた。その顔を眺めていると、姉の黒子は黒いが画の方は白いと気が付いた。そして、それを黒くすると姉の顔に一層似つかわしくなるであろうと考えたけれどどうすれば黒くなるかという方法が分らなかったのでそのままにしておいた。

 九時が打つともう米は眠たくなった。奥から母の笑い声が聞えて来た。いつも奥で寝ている彼は、今夜は何処で寝て好いのか知らなかった。すると、また、昨夜眼を醒した時の母と男との囁(ささや)きを思い出した。そして、学校の帰り道に石橋の上へ書いた楽書(らくがき)を消したかどうかと気がかりになって来た。それは消したようでもあるし消さないようにも思われた。

 母が奥から出て来たとき、

 「何処で寝るの。」

 と米は訊いた。

 「アそうそ、お前もう眠な。」

 母はそういうと直ぐ奥へ引き返して行った。そして奥の間で「些(ち)っと失礼します。」といって蒲団(ふとん)を米の横へ持って出て来てから、楕円形の提灯(ちょうちん)に火を照(つ)けた。蝋燭(ろうそく)は四寸(すん)ほどもあった。

 「お前提灯持って二階へお上り。」

 と母はいった。子が階段を昇ると母はその後から蒲団を擁(かか)えて昇った。

 母が蒲団を敷いている間、子は灯(ひ)が消えないように提灯をさげていた。「お母さんも寝な恐(こ)わい。」と子はいった。

 「直ぐ来るえ。直(じ)っきや。」と母はいった。子はそれきり何ともいわなかった。母は梯子(はしご)の中頃まで降りると「寝る時灯を消しな、え。」といった。子は「うん。」といって灯のついたままの提灯を畳んで枕もとに置いてから、母について降りた。そして鉢へ冷(さ)めた鉄壜(てつびん)の湯をいっぱい注(つ)いで、それを再び二階へ持って来て枕元の提灯の傍へおいた。寝巻を着返(きが)えて蒲団の中へは入ると子は俯伏(うつぶ)せになって、川の水でも飲むような格好で一口鉢の湯を呑んだ。それから、母と自分との蒲団の領分を定(き)めようと思って母の木枕(きまくら)を捜したが見あたらなかった。で、身体を蒲団の片方へよせてまた鉢の湯を一口呑んだ。そして彼は額(ひたい)を枕にあてると母の笑い声が下から聞えて来た。何時(いつ)母は寝に来るのかしらと思ったが母の来るまで楽しみに一口ずつ長らくかかって鉢の湯を減らそうと心に決めた。湯は三口目に一分(ぶ)ほど減った。しかし四口目の頭は何時までたっても枕の上から上らなかった。

 その夜の一時過ぎに子は眼が醒めた。すると、寝巻を着た母が蒲団の上に坐って彼をしっかりと抱いているのを知った。母の背後にはランプを持った刺繍の先生が黙って立っていた。あたりに煙が籠(こも)っていた。そして、真黒に焼けて輪をはじけさせている提灯を中心に、枕元の畳の焦げた黒い部分が子の寝ていた枕の直ぐ傍で拡(ひろ)がって来ていた。鉢は焼け残った子の着物の上にひっくり返っていた。子は瞑(つぶ)りかけた眼で焦げた畳を眺めていた。そして首を些っと横に振ると、母の拡(ひろ)がっている襟(えり)もとへ顔を擦(す)りつけるようにしてかすれた声で

 「早よう眠よう。」

 といってまた眼を閉じた。母は黙っていた。その中(うち)に彼女の眼が潤(うる)んで来た。

 「ランプはもう要(い)りませんか。」

 と先生がいった。母はやはり黙って少し前へ身体を動かした。

 先生も黙って下へ降りて行った。室(へや)の中が暗くなると、母は子を一層強くだいた。そして長らくして、

 「虫が報(し)らせたのやわ。」

 と小さい声で呟(つぶや)いた。子はもういびきを立てていた。

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