音へ
今真夜中の二時を少し回ったところです。今が最後のチャンスかも。そう思って、病院の方に便箋とペンを借りました。もうあまり字が上手に書けなくて、恥ずかしいけど、便箋を光に透かすと小さな花びらが浮かびます。素手でしょう。
音、お母さんはそろそろいなくなります。あっという間だったね、時間が足りない、まだ何にもできてない。まだ死ねない。あなたを一人残してしまうの。
音、あなたを父親のいる子にしてあげられなかったこと、なんと後悔しても足りません。お母さんはもう髪を結んであげることもうできません、それでもお母さん、あなたを産んでよかったと思っています。
あなたはとても質問の多い子だった。なんで水は濡れるの?髪の毛はどんどん伸びるのに、なんで眉はちょうどで止まるの?どうして寂しい気持ちはあるの?あなたには絵本が必要な方。自分で作った物語を私に話して聞かせながら眠りに付くから。歩くのが早い私の後を、大丈夫や、そう言って付いてくる小さなあなたを見ていて、いつも思いました、この子には人生を切り開く強い力がある。
音、たくさんの人と出会ってね、自由に見て、自由に話して、好きなように生きて、それはあなたが心を持って生まれた大切な寶物だと思う。あなたはいつか学校に行って、友達を作るのかな、中学生になって、高校生になって、誰かを好きになるのかな?どんな恋をするんのだろう、恋をすると、嬉しいだけじゃなくて、切なくなったりするね。きっと人は寂しいっていう気持ちを持っているのは、誰かと出会うためなんだと思います。
時に、人生は厳しいけど、恋をしてる時には忘れられる。恋をして、そして、いつかたっだ一人の人に出会えるといいね、その人はきっとあなたの質問に答えてくれる。あなたの物語を聞いてくれる。あなたが生まれたことを喜んでくれる。
葡萄の花は葡萄の味がする、バナナの花はバナナの味がする、愛するって、心から心へと残していくことだと思う。音が笑ってる時、お母さんも笑ってる。音が走ってる時、お母さんも走ってる。大好きな私の娘、大好きな音、愛しています。どうか幸せに。
母より