かなり前のことですが、若い友人の作家がぼくにピアノを習いませんか、とすすめたことがありました。
「五木さん、ごらんなさい。ピアニストはみんな驚くほど長命でしょう?それにいつまでもボケません。あれは両手の指を同時に働かすことが肉体と精神にすばらしくよいということの証拠なんです。」
ぼくは彼の言葉には賛成でしたが、今さらバイエルをさらう気もせずに笑って辞退しました。
しかし、彼の言葉は正しいと思います。ピアノだけではない。絵を描く人だって、ロクロをひく人だって、みんな長生きで元気です。ことに彫刻家はすごい。
手を使って何かをすることは、人間にいい影響を及ぼすんですね。しかし、それだけではないんじゃないか。
手を使うだけでなく、手がよろこんでいることが大事だとぼくは思うのです。ピアノを弾くことは指にとってもよろこびです。彫刻も創造的な作業です。絵を描くのも、ロクロをひくのも、みんな創造的なよろこびがある作業です。
ただ指を運動させる、ということとは少しちがうものがそこにはありはしないか。トレーニングとして機械的に指の訓練をすることも悪くはないでしょう。しかし、それだけでは何かがたりない。そうです。よろこびをともなってこそ、指は人の生命をいきいきとよみがえらせるのだよ思います。
問い:この文章で筆者が最も言いたいことは何か。
1 芸術家は両手の指をいつもよく働かしているので、長生きである。
2 機械的に指を働かしていれば、創造的な仕事が生まれ、長生きすることもできる。
3 指を働かすことが人にいい影響を与えるには、それにともなうよろこびが必要である。
4 指のトレーニングをすることは、人の肉体と精神にいい影響をおよぼす。