妻子
横光利一
2026.9.14.
雨停了,风也停了。小路两侧的花朵仍倒伏着,头垂在地面上。一直摇晃着的葡萄架藤蔓也渐渐安静下来,从垂下的葡萄果实顶端,雨滴缓缓落下。不知从何处传来人声,久违地响起:
“啊,这声音真让人怀念。”妻子从地板上说道。
妻子已经很久病卧在床了。自从姑妈去世后,她便立刻染上了重病。
在遥远荒芜、一片杂草丛生的空地上,一把被遗忘的椅子微微倾斜,湿漉漉地歪斜着,脑袋低垂着。对面阴沉的天空下,竹林边缘沉重地垂落着。
我仿佛不打算踩踏那倒在门边的小花一般,脚步轻浮地向前走去。那条易滑的石板小路,泛着柔和的青光。细流蜿蜒流淌,带着虫鸣与花瓣飘荡。突然间,我的脚猛地一抖,整个人仰面倒下。冰冷的草叶轻轻拍打我的脸颊。每当下雨,我总是在此地跌倒。
格子对面,妻子正摆动身体笑着。我张开嘴,显得有些傻气,迅速爬回屋里换上和服。
“快点,快点,快点!”
“你……你……”妻子一边笑一边突然咳嗽起来。
“我不恶心,是花儿恶心。”
“是你在搅扰我。”
“我可是一直像踩花一样保持镇定。”
“那样做太不像话了。”
我用戏谑的语气说:“不,不,别这样。”
“再试一次吧。”
我沉默着。
“好像新感觉。”
“真是自以为是。”
我在光亮的边缘裸露着身体。面对病弱的妻子,寂静中那种良人的姿态,竟比任何事物都更让我感兴趣。起初,每当我跌倒,妻子的脸色就变得发青。但渐渐地,这种情绪平复下来,到了第三种形态时,又转为一种嘲讽。我们就这样反复变换着姿态,搬进这个家。
“我想吃红葡萄。”妻子忽然会这样说。
当她说出这句话时,她最吸引人的地方,便是那种幽默而优雅的男子汉姿态。接下来的第四种形态又是什么?我并不想继续思考接下来会发生什么。
第二天早晨,云已放晴。我醒来后立即走到葡萄架下抬头望去。从叶丛中射出的一道光线,锐利地刺穿了我的眼睛。我低头望去,露水沾湿的葡萄串,在晨光中投下清晰的影子,每一颗都散发出明亮的光芒,静谧地伫立着。我伸手去摘了一粒。
“好吃。”
妻子站起身,躺在地上,
“我也好,我也好。”说着,伸出手。
“开心吧,真好吃。”
我抓起一串葡萄,递到妻子床边。
“哎呀,好重啊。”
“你们这些老太婆,看你们头发就像紫葡萄一样。”
“再过不久虫子就会来,现在不处理可不行啊。”
“你把你的床铺也抱紧我吧,把我的愿望放进去。”
“啊,真好吃,嘴巴都快吃撑了。”妻子说道。
我一看,妻子的头发上从清晨就长满了白色的茅草花。
我又回到葡萄架下,然后在井边擦干身体。雇来的老婆正把倒下的墙边野花扶起来。
我忽然瞥见旁边玫瑰叶上那把褐色的雌性镰刀,仔细一看,原来那是另一只蓝色雄性镰刀用大镰刀压住它的脖子,迅速地将它吃掉了一半的样子。
“原来如此,这正是夫妻生活第四种形态。”我心想。
雄性还在被雌性啃食到腹部时,仍轻轻左右摆动着头。但在我看来,他那张脸上的神情似乎在诉说痛苦,倒像是带着某种悠长而深沉的喜悦。他的眼神中分明透出一种被紧紧束缚般的恍惚欢愉。
婆婆弯着腰,手里拿着扫帚,从无花果树下朝我走来。
“喂,婆婆,过来瞧一瞧。”我说。
婆婆顺着我的手指望向那把镰刀,
“哈哈,是啊。”她答道。
“这是什么?”
“先生,这是两把。”老婆突然大声喊道。
“是这样吗?”
老婆又高声喊道:“啊啦!”
“什么?”
“先生,这东西,您吃了。”
“嗯,是这样。”
“哈哈,先生,我也吃了。”
“吃的是雌性镰刀,因为亭主一进屋,雌性镰刀就会被吃掉。”
“真的吗?”
“当然。”
“哎呀,快来看一下,那个讨厌鬼来了。他要吃掉自己的亭主,还这么反复地、这么反复地……”老婆说着,脚在地上跺得厉害。
我一边擦身,一边走到无花果树下。无花果树浓密的叶子下,结出了泛黄的果实。栗子的枝条也已膨胀得鼓胀起来。
我看着那位仍心怀怨恨的老婆,觉得她的神情十分有趣。她曾与二十个富家子弟有过婚约,之后四十年独自一人前来,却不知自己究竟做了些什么。她至今仍体内藏有强烈的毒药。正因为老婆说要吃掉亭主,所以她才拼命地对雌性镰刀发泄怒火。
片刻后,老婆依旧手持扫帚,来到我身边。
“先生,我已经杀了。”
“吃完了?”
“已经吃了,刚刚吃完。”
“这样啊。”
“真是个令人作呕的家伙。像这样的男人,我真气不过,绝不能让他逍遥法外。”
“吃掉的人居然还高兴。”
“你这话真好笑。”
“女人被吃掉,谁会开心呢?”
“呵呵呵呵呵。”老婆笑了起来。
她似乎把我的话理解成了低俗的意味。
她立刻转身回到妻子那边去了。
“夫人,那个丈夫可不会轻易放弃的。真是奇怪,为什么是您。”
老婆那低沉的声音在耳边响起。
我径直卷起衣角,走进了露水沾湿、闪亮的杂草丛中。
微风带着清晨的芬芳,轻轻掠过草叶。草穗微微摇曳,青翠的果实静静晃动。一排排葱叶在露水中闪闪发亮,像剑一般笔直地竖立着。
“喂。”
“嗯。”妻子轻声应道。
“要不要吃无花果?”
“嗯。”
远处的草丛中,一个年幼的孩子正专注地听着母亲的话,那清澈的身影显得格外动人。
妻
横光利一
雨がやむと風もやむだ。小路こうぢの兩側の花々は倒れたまま地に頭をつけてゐた。今迄揺れつづけてゐた葡萄棚の蔓は靜まつて、垂れ下つた葡萄の實の先端からまだ雨の滴りがゆるやかに落ちてゐた。どこからか人の話し聲が久し振りに聞えて來た。
「まア、人の聲つて懷しいものね。」と妻は床の中から云つた。
妻はもう長らく病んで寢てゐた。彼女は姑が死ぬと直ぐ病ひになつた。
遠くの荒れた茫々とした空地の雜草の中で、置き忘れられた椅子がぼんやりと濡れた頭を傾けてゐた。その向ふの曇つた空の下では竹林の縁が深ぶかと重さうに垂れてゐた。
私は門の小路の方へ倒れた花を踏まないやうに足を浮かせて歩いてみた。傾き勝ちな小路の肌は滑かに青く光つてゐた。その上を細い流れが縮れながら蟲や花瓣を浮べて流れてゐた。すると私の足は不意に辷つた。私は亂れた花の上へ仰向きに倒れた。冷たい草の葉がはツしと頬を打つた。雨が降るといつも私はそこで辷るのだ。
格子の向ふで妻が身體を振つて笑つてゐた。私は馬鹿げた口を開けて着物を着返へるために家の中へ這入つた。
「どうも早や、參つた、參つた。」
「あなたの、あなたの。」さう云ふと妻は笑つたまま急に咳き出した。
「俺が惡いんぢやないぞ。花めが惡いんだ。」
「あなたが周章てるからよ。」
「俺は花を踏まないやうに氣をつけてやつたんだ。」
「あの格好つたらなかつたわ。」
私は芝居の口調で、
「いやいや、」と云つた。
「もう一度辷つてらつしやいな。」
私は默つてゐた。
「まるで新感覺よ。」
「生意氣ぬかすな。」
私は光つた縁側で裸體になつた。病める妻にとつて、靜けさの中で良人の辷つた格好は何よりも興趣があつたに相違ない。初めの頃は私が辷ると妻の顏色も青くなつた。それがだんだんと平氣になり、第三段の形態は哄笑に變つて來た。私達は此の形態の變化を曳き摺つて此の家へ移つて來た。
「赤ちやんがほしいわ。」と、突然妻が云ひ出すことがある。
さう云ひ出す頃になると、妻は何物よりも、ユーモラスな良人の辷つた格好から愛すべき風格を見附け出す。その次ぎの第四の形態は何か。私は次ぎに來る左樣なことを考へるものではないと考へる。
次の日の朝雲は晴れた。私は起きると直ぐ葡萄棚の下へ行つて仰いでみた。葉の叢から洩れた一條の光りが鋭く眼を貫いた。私は顏を傾け變へた。露に濡れた葡萄の房が朝の空の中で克明な陰影を振りかざし、一粒づつ滿腔の光りを放つて靜まつてゐた。私は手を延ばすと一粒とつた。
「うまい。」
床の上へ起き直つた妻が、
「私にもよ、私にもよ。」と云つて手を差し出した。
「喜べ。うまいぞ。」
私は露で冷めたくなつた手に一房の葡萄を攫んで妻の床の傍へ持つていつた。
「あらあら、重いわね。」
「ベテレヘムの女ごらよ。ああ汝の髮は紫の葡萄のごとし。」
「もう直ぐ蟲がつくから、今とらないと駄目だわね。」
「汝は汝の床もて我を抱け。我の願ひを入れよ。」
「まア、おいしい。口がとれさうよ。」と妻は云つた。
見ると、妻の髮に白い韮にらの花がこの朝早くから刺さつてゐた。
私はまた葡萄棚の下へ戻つて來た。それから井戸傍で身體を拭いた。雇つてある老婆が倒れた垣根の草花を起してゐた。
私はふと傍の薔薇の葉の上にゐる褐色の雌めすの鎌切りを見附けた。よく見ると、それは別の青い雄をすの鎌切りの首を大きな鎌で押しつけて早や半分ほどそれを食つてゐる雌の鎌切りだつた。
「なるほど、これや夫婦生活の第四段の形態だ。」と私は思つた。
雄は雌に腹まで食はれながらまだ頭をゆるく左右に振つてゐた。その雄の容子が私には苦痛を訴へてゐる表情だとは思へなかつた。どこかむしろ悠長な歡喜を感じた。その眼の表情には確に身を締めつけられるやうな恍惚とした喜びがあつた。婆やが曲つた腰つきで箒を持つて無花果の樹の下から私の方へ歩いて來た。
「おい、婆さん。一寸來て見な。」と私は云つた。
婆やは私の指差してゐる鎌切りを覗き込むと、
「ははア。」と云つた。
「これ、何んだか知つてるかね。」
「旦那さま、これや二疋ですな。」と老婆は急に大きな聲を出した。
「さうだ。」
すると老婆はまた「あらツ」と聲を上げた。
「何んだ?」
「これや旦那さま、食はれてゐますのぢや。」
「それやさうさ。」
「ははア。これや、旦那樣、食はれてをりますのぢや。」
「食つてゐるのは雌めすなんだよ。鎌切りの女は亭主が入らなくなると食ひ殺すんだ。」
「ほんたうでございますか。」
「本當さ。」
「まア奥樣、來て見なさい。憎い奴がをりますわ。自分の亭主を食ひやがつて、これやツ、これやツ。」と老婆は云つて足で地を打つた。
私は身體を拭きながら無花果の樹の下へ來た。無花果は厚い葉の陰から色づいた實を差し出してゐた。不氣嫌さうに栗のいがは膨れてゐた。
私はまだ鎌切りに心から腹を立ててゐるらしい老婆の容子が面白かつた。彼女は二十臺に良人に別れた。それから四十年、獨身で來ながらもその間何をして來たか分らなかつた。彼女は今も烈しい毒を體内に持つてゐた。その老婆が亭主を食つたと云ふので雌の鎌切りに必死に腹を立ててゐるのである。
暫くすると、老婆が箒を持つたまま私の傍へ來た。
「旦那さま、殺してやりましたわ。」
「食つて了つたか?」
「食つて了ひましたよ。すつかり食ひました。」
「さうか。」
「憎ツくい奴でございますな。あんな奴は、ひどい目に合はしてやりませんと腹が立ちますよ。」
「食はれてゐる奴は喜んでゐたんだぜ。」
「冗談を云ひなさんな。」
「女に食はれたら誰だつて喜ぶさ。」
「へへへへへへ。」と老婆は笑ひ出した。
彼女は私の言葉を下品な意味にとつたと見えた。
彼女は直ぐまた妻のゐる方へ引き返して行くと、
「奥さん、あの旦那さまは油斷なりませんよ。なかなか、どうしてあなた。」
そんなことを云つてゐる老婆の聲が耳に這入つた。
私はそのまま裾を捲つて露の溜つてゐるきらきらした雜草の穗の中へ降りて行つた。
微風が朝の香りを籠めて草の上を渡つて來た。草玉が青い實を靜に搖つた。數列の葱が露に輝きながら劍のやうに垂直に立つてゐた。
「おーい。」
「はーい。」と妻の低い聲がした。
「無花果、入らないか。」
「はーい。」
遠くの草の中で、幼い子供が母の云ふことをよくきいてゐる清らかな姿が見えた。