小说中的女人 丰岛与志雄

小説中の女

豊島与志雄

小说中的女人

丰岛与志雄

那天,我在镰仓的朋友家玩了半天,“明天早上必须写小说”,有人劝我留宿,我硬辞了,急匆匆地赶到车站,赶上八点四十几分开往东京的火车。趁隙跳了上去。然后瞅准车厢里人比较少的地方,把帽子和手杖扔到行李架上,放松双脚,深深坐了下去,但车厢里明亮的灯光和乘客们匆忙射进来的视线让他感到有些胆怯。我的心突然被已经开始行驶的火车的颠簸声吸了进去,连抽烟的闲工夫都没有,抱着双臂闭上了眼睛。呼出的酒香连自己都能感觉到,他知道已经醉得很厉害了。头脑中的世界异常清澈。朋友家庭的情景以及和朋友交谈的内容,都片断地——就像用幻灯机投影在大脑内壁一样,以清晰的静止状态浮现出来。“如果明天开始创作的话……。”我深切地感受到了放弃,恋恋不舍地目送他走到门口的朋友的用心。而且似乎受到了激励,我不知不觉把心思转向了创作。

应该从第二天早上开始写的那篇小说,在脑海中大致完成了。不过,还有一点还不清楚。那是小说中出现的女性美佐子的面影。美佐子是现代的年轻女性,理智的面容上透着一股忧郁,讽刺与温情适度地交融在一起,眼角漾着微笑的影子,嘴角紧绷,牙齿有些凌乱,身材瘦削,心理不稳定。赢了。虽然很清楚这一点,但想要在脑海中浮现出来时,却怎么也想不起来。无论怎样细致地画线,也无法清晰地描绘出整体的立像。……然而,隔着朦胧的雾霭,我清楚地知道她就站在眼前。雾霭渐渐消散,她说不定马上就会出现。就像星星的形体从星云凝结出来一样,从一片模糊的物体逐渐雕刻出一个统一的形体,这是一般的路径。我一边等待着这样的时刻,一边在焦躁、兴奋和期待中,注视着尚未成形的美佐子的身影。而且几乎没有注意到过了隧道,到了大船。

嘈杂的叫卖声让我这才回过神来,茫然地睁大眼睛。明亮的车厢和透过窗户看到的长廊站台的光景等,映入眼帘的世界都像被浸泡在清冽的水中一般,变得清新清澈。我仿佛失去了自我,只是目不转睛地瞪着眼睛,机械地取出香烟点燃。那时即使有人向我搭话,我恐怕也不会回答,或者回答得莫名其妙。

我怀着这样空空如也的心情望着香烟的烟雾,突然,视线被烟的另一边,也就是我对面凳子的斜对面所吸引。右耳上不加区分地分着头发,头发在额头上高高翘起,头发的尾端在后脑勺扎成一束,黑色玳瑁的大发夹深深插在发根上,她那清纯秀气的脑袋,恐怕和我一样漠不关心。望着外面。他的发型、瘦削的侧脸、扭动腰肢的姿势等,整个造型都很符合我的心意。

“是美佐子!”

但我并不惊讶。我的心一直期待着美佐子会出现在自己面前。只是不可思议的是,从镰仓到那时,我为什么没有注意到她呢?她在哪里坐火车来的呢?是比镰仓更早乘坐的呢,还是在镰仓和我一起乘坐的呢?……但这些都无所谓了。最重要的是她到底是不是美佐子。从侧脸看是那样的,从正面看完全是另外一个人的情况也很常见。不知道会如我所愿还是会事与愿违,出于这种不安,我先环视了一下车厢。

三个文学通模样的青年、两个上班族模样的男人、料理店女佣和掌柜模样的男女、半白半白的实业家模样的男人、三名海军军官,全部乘客只有这些人,有的人坐在跳来跳去地窃窃私语,有的人离开了。有人弯着腰望着窗外的黑暗,也有人在看晚报,但大多数人都靠在窗边迷迷糊糊地打瞌睡。而且似乎没有人注意我。车厢内的空气安静而模糊。于是我放下心来,目不转睛地看着斜对面的她。

她看起来像二十七八岁左右。这有点伤脑筋。美佐子必须是二十二岁。不过,年龄差距根本无所谓,我转念一想。把额头上僵硬的皮肤换成长得胖胖的柔软薄的皮肤,增加眼睛深处的水分,淡化嘴唇的赘肉,弯曲指节,加深指甲的发际线,让脖子上的肉变得蓬松,这样就会变得年轻。

想着想着,火车已经开始行驶了。她转过身来,用谨慎的目光扫了一眼车厢,然后呆呆地看着膝上的金边小书,漫不经心地读着——或者不如说,她沉浸在漫无边际的幻想中。好像有。看着他正面的表情,我屏住了呼吸。和美佐子一模一样。

她的额头落在浓密的头发下,显得有些狭窄和寂寞。白皙的皮肤让人联想到知识浅薄。美佐子对这种事毫不在意,带着一种讽刺和忧郁,出于某种自己也不明白的要求,埋头阅读翻译小说,她的额头,弯在小字上的额头,就那样。——她那仿佛一笔画出来的清晰、细长、消失的寂寞眉毛,与美佐子的眉毛正合适。美佐子和一个自称未来剧作家的大学生谈恋爱,眉宇间的浓眉让人联想到这段不太可能长久的恋情。——她的眼睛被奇怪的看不透的阴影包围着,里面包含着某种冰冷的东西。没有浮肿的薄眼睑、长长的睫毛、小小的黑眼珠,还有眼角处若隐若现的凹陷处。我盯着她低垂的眼睛,感觉好像被美佐子挪开了一点视线。美佐子的眼神应该更露骨才对。不过,如果她现在抬起眼睛看着我,说不定会变成美佐子的眼睛……想着想着,我等待着她的视线,但她一直没有看我。于是我转过头去,继续往前走。

 その日私は、鎌倉の友人の家で半日遊び暮して、「明日の朝から小説を書かなければならない」ので、泊ってゆけと勧められるのを無理に辞し去って、急いで停車場へ駆けつけ、八時四十何分かの東京行きの汽車に、発車間際に飛び乗った。そして車室の、人の少い程よい場所をちらっと見定めて、帽子とステッキとを網棚の上に投り上げながら、足先の力を抜いて深々と腰を下したが、慌しく飛び込んで来た車室の明るい光と乗客達の視線とに、一寸気圧けおされた形になったし、もう進行しだしてる汽車の動揺と響とにいきなり心が捲き込まれた形にもなって、煙草を吸うだけの余裕もなく、両腕を組んで眼瞼を閉じた。ほーっと吐いた息の自分でもそれと感ぜられる酒の香に、だいぶ酔っていることが分った。頭の中の世界が、変に澄みきって冴えていた。友の家庭の光景や友と交えた会話などが、断片的に――而も幻灯仕掛で頭脳の内壁に投影されるように、はっきりした静止の状態で浮き出してきた。「明日から創作をするのなら……。」と諦めて、名残惜しげに門口まで見送ってきた友の心根が、しみじみと感ぜられてきた。そしてそれに励まされるような気で、私はいつしか創作の方に心を向けていった。

 翌日の朝から書き初める筈のその小説は、頭の中では大体出来上っていた。けれどもただ一つ、未だにはっきりしない点が残っていた。それは小説の中に出てくる女性みさ子の面影だった。みさ子は現代的な若い女性で、理知的な顔立に一味の憂鬱を湛え、皮肉と温情とが適度に交り合い、眼尻に微笑の影が漂い、口元がきっとしまって、白い歯並が少し乱れ、すらりとした身長で、心持ち跛足でなければいけなかった。がさて、それだけのことははっきり分っていながら、それを頭の中に浮べようとすると、どうも面影が生き上ってこなかった。こうだああだと細かく線を引いてみても、全体の立像がはっきり浮び上ってこなかった。……然し、ぼんやりした靄越しに、彼女がすぐ其処に立ってることを、私ははっきり知っていた。靄がすっと消えていって、今にも彼女がまざまざと現れてくるかも知れなかった。星雲から星々の形体が凝結してくるように、ただ一面にもやもやとしたものから、次第に一つのまとまった形体が刻み上げられる、それが普通の径路である。私はそういう時を待ちながら、或る焦燥と興奮と期待とのうちに、まだ形を具えないみさ子の姿を心で見つめていた。そして隧道を過ぎたことも大船に着いたことも、殆ど気がつかなかった。

 騒々しい呼売の声に、初めて私は我に返って、ぼんやり眼を見開いてみた。明々として車室の中や窓越しの歩廊プラットホームの光景など、眼に映ずる世界が凡て、清冽な水にでも浸されたかのように、瑞々しく冴え返っていた。私は自分自身を取失ったような心地で、ただまじまじと眼を見張りながら、機械的に煙草を取出して火をつけた。その時誰かに言葉をかけられたとしても、私は恐らく返辞をしなかったろうし、或は突拍子もない返辞をしたであろう。

 そうした空な心で、私は煙草の煙を眺めていたが、ふと、煙の彼方、私と反対の側の腰掛の斜正面の所に、視線が自ら惹きつけられた。右の耳の上で分けるともなく髪を分けて、それを額の上に高く房々となびかせ、その末を後頭部でふうわりと束ねて、黒鼈甲の大形のピンを根深にさしている、清楚な趣味の女の頭が、恐らく私と同じような無関心さで、窓の外を眺めていた。その髪形、細そりした横顔、腰をくねらしている姿勢など、全体の恰好が、私の心にぴたりときた。

「みさ子だ!」

 でも私は別に驚きはしなかった。私の心はいつでも、自分の前にみさ子を見出すことを予期していた。ただ不思議なのは、鎌倉からその時まで、どうして彼女に気付かなかったのだろう? 彼女は何処で汽車に乗ってきたのだろう? 鎌倉よりも前から乗ってたのだろうか、或は鎌倉で私と一緒に乗ってきたのだろうか?……でもそんなことはどうでもよかった。彼女が果してみさ子であるかどうか、それが最も肝要なことだった。横顔でそうだと思ったのが、正面から見ると全く別人であるようなことも、よくありがちである。期待通りになるか或は期待が裏切られるか、それに対する不安の念から、私は先ず車室の中を見廻してみた。

 文学通らしい三人の青年、会社員風の二人の男、料理屋の女中と番頭といった風の男女、実業家らしい半白の男、三人の海軍士官、それだけが全部の乗客で、飛び飛びに腰掛けながら、ひそひそと話しているのもあれば、退屈げに窓の外の闇を透し見てるのもあれば、夕刊を拡げてるのもあったが、多くは窓にもたれてうとうとと居睡っていた。そして誰も私の方へ注意してる者はいないらしかった。車室内の空気までが静かでぼんやりしていた。で私は安心して、斜向うの彼女をじっと見調べてやった。

 彼女は見た所、二十七八歳くらいらしかった。それが一寸困った。みさ子は二十一二歳でなければいけなかった。けれど、年齢の差くらいはどうにでもなる、と私は思い返した。硬ばった額の皮膚を、毳むくげのありそうな柔かい薄い皮膚に代え、眼の奥の潤みを多くし、唇の肉付を薄め、指の節をまるめ、爪の生え際の深みを浅くし、首筋の肉をぼやぼやとさせれば、それで若やぐのだったから。

 そんなことを考えてるうちに、汽車はもう進行しだしていた。彼女は向き直って、控え目な視線でちらと車室の中を刷いて[#「刷いて」はママ]、それからぼんやり、膝の小型な金縁の書物に眼を落しながら、いい加減に読んでいる――というよりも寧ろ、取り留めもない夢想に耽っているらしかった。その正面の顔立を見て、私は一寸息をこらした。みさ子そっくりだったのである。

 房々とした髪の影を落してる彼女の額は、心持ち狭くて淋しみを湛えていた。白々としたその皮膚が、余り広くない知識を思わせた。理解しようとすまいと、そんなことに頓着なく、一種の皮肉と憂鬱とで、何かしら自分にも分らない要求から、翻訳小説を読み耽ってる、みさ子の額、小さな活字の上に屈めた額、そのままだった。――ずっと一筆で刷いたようにくっきりとして、細長く消えてる淋しい彼女の眉が、みさ子の眉に丁度ふさわしかった。未来の劇作家を以て自任してる或る大学生と、みさ子は恋をしていたが、余り長続きしそうもないその恋を思わせる眉だった。――彼女の眼は、妙に見透せない影に包まれて、その底に何か冷たいものを含んでいた。脹らみのない薄い眼瞼、長い睫毛、小さな黒目、そして眼尻にあるかないかのかすかな凹み。私はその伏せられてる眼をじっと窺って、一寸みさ子からはぐらかされた気持になった。みさ子はもっと露わな眼付を持ってる筈だった。然し今に彼女の眼が挙げられて、私の方を向いたら、或はみさ子の眼になるかも知れない……などと考えて、私は彼女の視線を待ち受けたが、彼女はいつまでも私の方を見てくれなかった。で私は眼を後廻しにして、先へ進んでいった。

她的鼻子以陡峭的角度高高耸起,对日本人来说未免太高了。也可能是鼻梁上特别浓的白粉的缘故,看起来像那样。不过不管怎么说,幸好美佐子的鼻子没那么高。从远处看,他的鼻子并不显眼。不过她的鼻子虽然高,却很细,从远处看可能不太显眼……。但那并没有多大关系。只要鼻子笔直就够了。——脸颊的状况,完全和美佐子一模一样。脸颊上的肉很薄,兴奋起来会变得更加苍白,一个人沉浸在沉思中,脸上没有一丝微笑的影子。苍白的皮肤下,飘荡着某种神经质的东西。美佐子无论做什么姿态,在做什么梦想的时候,都不会像很多女人那样用指尖轻轻托住脸颊。也绝不允许亲吻她的脸颊。我在一个小剧团工作的时候,有个有名的剧作家在酒桌上开玩笑,要吻他的脸颊,我回答说嘴巴可以,脸颊边不行,这方面的话题至今还保留着。——从她的嘴角看,也正适合美佐子。她心情沮丧地微微嘟起,那紧闭的冰冷双唇似乎在表示某种坚定的意志。那张微微皱巴巴、歪歪扭扭的嘴唇,让人联想到牙齿参差不齐。美佐子有一次和她的大学生恋人去郊外散步,她像个孩子一样嬉闹起来,边走边啃苹果皮。啃掉的苹果上,留下了小小的门牙凹凸不平的痕迹,还好,苹果皮夹在牙缝里到处都是,即使用恋人的火柴棒当牙签,也怎么也取不下来,长时间都很不愉快。了。——她的衣领上有一颗显眼的大黑痣。这是我还没有想到的美佐子身上的情况,不过配在美佐子身上似乎也非常合适。

黑痣这个新发现,让我喜出望外地微笑着,久久地注视着它从水蓝色长衫的衣领露出来的模样。这时,火车驶入了户冢和程谷之间的隧道。耳鸣的响声使车内的灯光变得有些昏暗,在朦胧的光亮中,她突然抬起头来,注视着我。眼神异常空虚。我无法判断它底下的东西是温情还是敌意,于是不自觉地移开了视线。驶出隧道后,我又看了她一眼。她仍然看着我。那是纹丝不动的高傲眼神。我从那深处看到了美佐子生气时的眼神。带着轻蔑的漠不关心的锐利眼神。她一定知道我刚才一直盯着看的事。我并没有别的意思,但还是有些不好意思。我望着窗户,呆呆地目送远处黑暗中飞驰而去的点点灯火。但脑海中却清楚地浮现出美佐子的面容。

经过程谷时,我又看了她一眼。那一瞬间,她的眼睛又转向我,把我的视线推了回去。我垂下眼睛。于是,我的目光正好落在她踩着厚毛毡草鞋的脚尖上。没有一丝缝隙地紧紧套在白布袜里,长长的指尖踩在脚上,没有踩平,很帅的小脚丫。我想,也给美佐子一个这样的脚吧。然后又不自觉地开始检查她的身体。井架上的和服轻盈地垂下,她的腿似乎很修长。这样的长腿也很适合美佐子。不过,无论怎么想象,她都不像是瘸子。不过,美佐子的脚微瘸,一眼看不出来。在女校二年级的时候,因为意外失火,家里被烧——从此全家家道中落美佐子就离开了学校……那次左脚扭伤,成了膝关节神经痛,至今还时常疼痛。而且对面小腿两侧有两个大大的艾灸印。她的脚上似乎没有那种艾灸痕迹。但那是从外面看不见的东西,想象一下也就足够了。——唯一不行的是她身体的体积。那是一条纺绸腰带,上面画着朦胧的水墨画云朵,圆上印着凤凰和龙的古代印花布图案,虽然系得很紧,但从胸口到腹部隆起,让人联想到一个大山腹。可美佐子并没有那么伟大的躯体。一副腺病质虚弱的身体。而且,她肩膀上的赘肉对美佐子来说也有点过于沉重了。只是肩膀瘦削,脖子细长,和美佐子一模一样。

这时,她似乎感觉到我的视线,微微一颤,举起双手,整理和服的领子,拢拢絽縮緬外褂的前襟,把两袖叠在膝上。看到她的指尖,我睁大了眼睛。那完全是美佐子的手指。像蛇一样缠着东西的修长柔软的手指,和膝盖神经痛有关的,有着一种病态的神经质精致触感的手指,还有细长弯曲的圆指甲。美佐子有适合弹钢琴和编织的手,但都还没学过。但不知是因为懒惰还是习惯,不,也许是无意识的感情,她非常讨厌洗衣服,非常爱惜手指和指甲。而且化妆时的指尖极其巧妙。

火车到了横滨。饭馆的女佣和掌柜模样的两人下了车,半白的实业家模样的男人也下了车。车内比以前更宽敞了。她明目张胆地打量着我,我又把脸转向窗外,闭上了眼睛。美佐子的立像清晰地浮现在脑海中。就像雕刻在大理石上一样,具有不可动摇的准确形体。我对着它在心里微笑着,不知不觉就迷迷糊糊地睡着了。火车的速度比以前快多了。在黑暗中奔驰的明亮车厢里,像梦中的世界一样温柔舒适。我半睁着陶醉的眼睛,亲昵而漠不关心地望着她,又闭上眼睛,对着脑海中的美佐子微笑。这样反复几次之后,真的睡着了。

沙沙的声音惊醒了我,火车已经停了。以为已经到东京站了,刚站起来一半,就知道是新桥站。与此同时,我感觉到她一直盯着我看。我有些狼狈,坐下来抽了一支烟,以掩饰羞怯。其他乘客都下了车,车厢里只剩下我和她两个人。火车开动时,我恍若半梦半醒。

她面向正前方,收起书本,双手放在膝盖上,一动也不动。我清楚地感觉到他的视线正从我旁边的窗户向外延伸。我目不转睛地盯着她的脸。美佐子已经六七岁了,坐在那里。“美佐子小姐”我说,她眼角的凹陷处浮现出微笑的影子,“咦,什么?”一边回答,一边用亲切的目光看着我。我一定会说:“你老得真快啊。”

那真是一种奇怪的心情。我不知道该如何是好,觉得看她——美佐子那边——不好,又觉得不看她装作若无其事也不是我的本意。她还是一动不动地从正面的窗户眺望着夜晚的都市。

 彼女の鼻は、日本人にしては高すぎるくらいに、急角度で細く聳えていた。或は鼻筋の上の一際濃い白粉のせいで、そう見えるのかも知れなかった。が何れにしても、みさ子の鼻はそれほど高くなくてよかった。遠くから見て、鼻が眼につく顔立ではなかった。然し或は彼女の鼻も、高いわりに細そりとしてるので、遠くから見たら余り眼につかないかも知れない……。がそれは大して関係のないことだった。ただ真直な鼻であることだけで沢山だった。――頬の工合は、全くみさ子そっくりだった。肉附が薄くて、興奮したら益々蒼ざめてゆきそうな頬、一人で思い耽っていて、微笑の影のさすことがない頬だった。その蒼白い皮膚の下には、或る神経質なものが漂っていた。みさ子はどんな姿態をしても、またどんな夢想の折にも、時々多くの女がなすように指先で軽く頬を支えることがなかった。またその頬へ、決して接吻を許さなかった。或る小さな新劇団にはいっていた頃、有名な劇作家が酒の上の戯れで、その頬に接吻しようとした時、口ならいいけれど頬辺はいやと答えたのは、今でもその方面の話柄に残っていた。――彼女の口元からも、みさ子に丁度ふさわしかった。心持ちしゃくれながら長めに尖ってると、きっと結んだ冷たそうな唇とに、何かしら堅固な意志表示が見えていた。少し皺のある歪みがあるその唇は、歯並の悪さを想像させた。みさ子は或る時恋人の大学生と郊外散歩に行き、子供らしくはしゃぎ出して、歩きながら林檎を皮のまま噛った。噛り取った林檎に、凸凹の小さな前歯の跡がついた、まではよかったが、林檎の皮が歯の間に方々はさまって、恋人の持ってるマッチの棒を楊枝に使っても、どうしても取りきれないで、長く不快な気持を味わされたのだった。――彼女の襟元には、すぐ眼につく大きな黒子ほくろがあった。それは私もまだ、みさ子に想像していないことだったが、みさ子にくっつけても非常によく似合いそうだった。

 この黒子という新発見に、私は一寸嬉しくなって微笑みながら、水色の襦袢の襟からそれが覗き出してるのを、いつまでも眺めていた。そのうちに、汽車は戸塚と程ヶ谷との間の隧道にはいった。耳鳴りがするような大きな響に、車内の電燈の光が少し薄らいで、茫とした盲いた明るみになった途端、彼女は俄に顔を挙げて、私の方に眼を据えた。変に空虚な眼付だった。その底にあるものが、温情であるか或は敵意であるか、私は一寸見定めかねて、知らず識らず眼を外らした。そして隧道を出てしまってから、私はまた彼女の方へ眼をやった。彼女はまだ私の方を見ていた。びくともしない高飛車な眼付だった。私はその底に、みさ子の怒った時の眼の光を見て取った。軽蔑的な無関心さに包まれてる鋭い眸だった。先程から私がしきりに眺めていたことを、彼女は知ってるに違いなかった。別に他意あって眺めたわけではないけれど、それでも私は少してれてきた。窓の方を向いて、遠く闇の中に走ってゆく点々とした灯を、ぼんやり見送った。けれど頭の中には、みさ子の顔立がはっきり浮彫になされていた。

 程ヶ谷を過ぎた時、私はまた彼女の方へ眼をやった。その瞬間に、彼女の眼がまた私の方へ向いて、私の視線を押し返した。私は眼を伏せた。すると、ぶ厚いフェルトの草履にのっかってる彼女の足先に、丁度私の眼は落ちた。一分のすきもなく白足袋にきっかりはまって、長そうな指先の※[#判読不可、153-上-18]った、平たく踏み広げられていない、恰好のよいちんまりした足先だった。みさ子にもこういう足先を与えてやろう、と私は思った。そしてまた我知らず、彼女の身体を見調べ初めた。井桁くずしのお召の着物が軽やかに垂れてる下に、彼女の足はすらりと伸びてるらしかった。みさ子にもそういう長い足がふさわしかった。ただ彼女の方は、どんなに想像しても跛足ではなさそうだった。然しみさ子は、一目では分らぬくらいのかすかな跛足だった。女学校の二年の時、不意の失火で家が焼けて――それ以来一家は零落しみさ子は学校を退ったのであるが……その折左足を挫いて、それが膝関節の神経痛となり、今でも時々痛むことがあった。そして向う脛の両側に、大きなお灸の跡が二つついていた。そういうお灸の跡なんかは、彼女の足にはなさそうだった。がそれは外から見えないことなので、まああるものと想像しても事は足りた。――ただいけないのは、彼女の胴体の容積だった。墨絵式の雲をぼかした中に円に鳳凰や竜の古代更紗模様を入れた羽二重の帯で、固くしめつけられてはいたけれど、鳩尾から腹部へかけて、大きな山腹を思わせるような、ぼってりとした容積で肉がついていた。がみさ子はそれほど偉大な胴体を具えてはいなかった。何処か腺病質な弱々しい体だった。その上、彼女の肩の肉附も、みさ子には少し重々しすぎた。ただ肩がすらりとこけて首筋が長いのは、みさ子そっくりだった。

 その時彼女は、私の視線を感じてか、一寸ぴくりとした身振で両手を挙げて、着物の襟をつくろい、絽縮緬の羽織の前をかき合せ、両の袂を膝の上に重ねた。その指先を見て、私は眼を見張った。それは全くみさ子の指だった。蛇のようによく物に絡みつく、長いしなやかな指、膝の神経痛と関係のある、一種病的な神経質な精緻な触感を持ってる指、そして円く反った細長い爪。みさ子はピヤノと編物とに適した手を持っていたが、まだどちらも習ってはいなかった。けれども不精なためか或は習癖からか、否恐らく無意識的な感情から、洗濯を非常に嫌がっていたし、手先や爪を大変大事にしていた。そして化粧をする時の指先が極めて巧妙だった。

 汽車は横浜に着いた。料理屋の女中と番頭みたいな二人連れは降りたし、実業家らしい半白の男も降りた。車内が前よりも一層広々とまた白々しくなった。彼女が私の方をじろじろと、明らさまに而も偸み見の体で眺めるので、私は窓の方にまた顔を外向けて、眼をつぶった。みさ子の立像がはっきり頭の中に出来上っていた。大理石に刻まれたように、揺ぎのない正確な形体を具えていた。私はそれに向って心で微笑みかけながら、いつしかうとうととしかけた。汽車の速力は前よりもずっと早くなった。闇の中を疾駆する明るい車室の中が、夢の世界のようにやさしく快かった。私はうっとりとした眼を半ば開きながら、彼女の方を親しげに而も無関心にうち眺めては、またその眼を閉じて、頭の中のみさ子に微笑みかけた。そんなことを何度もくり返してるうちに、本当に眠ってしまった。

 ざわざわする物音にふと眼を覚すと、汽車は停っていた。もう東京駅に着いたのかと思って、半ば腰を上げた時、それは新橋駅であることを知った。と同時に、彼女からじっと見られてるのを感じた。私は一寸狼狽した気持になって、浮した腰を下しながら、てれ隠しに煙草を吸った。他の乗客はみな降りてしまって、車室には私と彼女と二人きりだった。汽車が動き出した時には、私は半ば夢の中にいるような呆けた気持だった。

 彼女は真正面を向いて、もう書物もしまい、両手を膝に重ねながら、じっと身動きもしないでいた。その視線が、私のすぐ側の窓から外へつきぬけてるのを、私ははっきり感じた。そして私はまじまじと彼女の顔を見つめた。みさ子が六七歳年を重ねて、其処に坐ってるのだった。「みさ子さん」と私が云ったら、彼女は眼尻のかすかな凹みに微笑の影を浮べて、「え、なあに?」と答えながら、私の方へ親しい眼を向けそうだった。そしたら私は、「随分早く年を取りましたね、」と云ってやったであろう。

 それは実に変梃な気持だった。彼女の方を――みさ子の方を――見ては悪いような、また見ないで澄してるのも本意ないような、どうしていいか分らない気持だった。彼女はやはりじっと正面の窓から、夜の都会の上を眺めていた。

到了东京站,我还呆呆地坐着。她立刻站起来,取下架子上的手提包和带皮带的阳伞。我也模仿他的动作,取下帽子和手杖。她朝我瞥了一眼就走了。我觉得自己莫名其妙地被遗弃了,隔了一寸才走到长廊上。我看见她穿着草鞋,修长的脚朝出口方向走去。我对着她的背影说:“再见了,美佐子!”我在心里呼唤着,朝她的反方向走去,准备换乘电车。

我没有写美佐子的小说。写不出来。想写的时候,那面影显得过于清晰,恰如熟悉多年的妻子或妹妹之类的近亲,过于贴近了。小说的构思是建立在把美佐子从远处眺望的手法上的,所以当美佐子的面容太近时,就无法很好地采用远近法。要写那个,从手法到构思都需要重新调整。我把它当作他日的事,写了另一篇短文寄给约定的杂志社。美佐子对我来说,成了一个亲密的活生生的女性。

三四个月后,一个秋高气爽的日子,我和朋友结伴去拜访住在郊外的一位颇有交情的女油画家。她在自己家里有一个小小的画室和一个宽敞的庭院。我们一边欣赏庭院里的花草,一边在画室里闲聊起来。

过了一会儿,女佣通知N夫人来访。我们准备告辞离开。女主人拦住了他。据她说,N夫人是她的老朋友,现在是个善良的家庭主妇,以前是个优秀的歌人。

这时N夫人来了。她穿着薄绸和服,套了一件碎花纱短褂,好像是去散步顺便穿的。我们各自被介绍了。我总觉得夫人好像在哪里见过,但想不起来,便礼貌地鞠了一躬,道了声“初次见面”。

不久,由于初次见面的N夫人也加入了,我变得莫名其妙地无聊起来,不知不觉走出了谈话圈,站起来走到庭院的入口。抽着烟,N夫人朝我走来。

“以前好像见过您。”她露出沉稳的微笑说。

“是吗……。”

我回头望着她。接着,领口上的黑痣映入眼帘。原来是她……那个美佐子。

我茫然若失地呆立不动。

“我记得好像是从镰仓来的火车上……。”她说。

一双奇怪的长睫毛黑眼珠小眼睛直勾勾地盯着我笑。我觉得他在嘲笑我当时的粗鲁,冷汗直流。与此同时,我感到一种说不出的惊讶。夫人似乎是个完美的女人。她拥有在任何情况下都能不动声色的沉着、精通文学的伶俐才能、处理家务的手腕、不偏心的性情等大部分的美德,但相对的,她拥有特殊的官能、对不幸的理解和热情。似乎缺乏强烈的情操。一言以蔽之,她似乎是个圆满而平凡的现代妇女。我从她的全身直接感受到了这一点,在美佐子和她之间找不到归宿。

“那个时候……那是你吗?”我总算开口了。

“是的,你已经忘记了吗?”

“尽管如此,总觉得好像是别的人。真的是你吗?……那样的话,实际上那个时候真是太失礼了,只看了你的脸……”那时我在想……有点奇怪的梦。”

我断断续续地说着这种滑稽的话。她笑了。提出今后希望交往。我只是漫不经心地应了一句。然后回到朋友和女画家那里去了。

过了一会儿,我和朋友回去了。回去的路上,我想起了N夫人。“还记得这么无聊的事!”想着。然后把她抛到脑外。秋天晴朗的阳光落在郊外的田野上,溅过一片树叶。我的心情也很舒畅。我只想着美佐子。她隔着一定的距离,仿佛是很久以前的人似的,用感慨万千的温柔眼神打量着我。沉静的微笑爬上我的心头。

那之后不久,我写了美佐子的小说。

 東京駅に着いても、私はまだぼんやり腰を下していた。が彼女はすぐに立上って、棚の上の手提と革の紐のついた日傘とを取った。私もその真似をして、帽子とステッキとを取った。彼女はちらと私の方へ視線を投げて出て行った。私は変に置きざりにされた気持で、一寸間を置いてから歩廊に出た。彼女が草履ばきのすらりとした足で、出口の方へつつーと歩いてゆくのが見えた。私はその後姿へ向って、「さようなら、みさ子さん!」と心で呼びかけておいて、電車に乗り換えるために、彼女と反対の方へ歩きだした。

 私はみさ子の小説を書かなかった。書けなかったのである。書こうとすると、その面影が余りにまざまざと、丁度多年馴れ親しんでる妻とか妹とか、そういった近親の者のように、余りに身近く現れてくるのだった。小説の構想はみさ子をつき離して遠くから眺むる手法の上に立てられていたので、みさ子の面影が余り目近に迫ってくると、遠近法がうまく取れなかった。でそれを書くには、手法から従って構想までも立て直す必要があった。私はそれを他日のこととして、約束の雑誌社へは、他の短いものを書いて送った。みさ子は私にとって、一人の親しい生きた女性となっていた。

 それから三四ヶ月過ぎて、或る秋晴れの日に、私は友人と連立って、郊外に住んでる懇意な女洋画家を訪れた。彼女は自分の家に、小さなアトリエと広い庭とを持っていた。私達は庭の草花を見ながら、アトリエの中で雑談を初めた。

 暫くすると、女中がN夫人の来訪を知らしてきた。私達は辞し去ろうとした。それを女主人は引止めた。そして彼女の言葉によると、N夫人は彼女の旧友で、今では善良な一家の主婦だが、以前は優れた歌人だったそうである。

 其処へN夫人がやってきた。セルの着物に小紋の絽の羽織を引っかけて、散歩ついでという様子だった。私達はそれぞれ紹介された。私は何だか夫人に見覚えがあるような気もしたが、はっきり思い出せないので、「初めまして」と挨拶をして、丁寧に頭を下げておいた。

 やがて私は、初対面のN夫人が加わったために、妙につまらなくなって、いつしか会話の圏外に出て、立ち上って庭の入口に出た。そして煙草を吹かしてると、N夫人は私の方へやって来た。

「いつぞやお目にかかったことがあるようでございますが。」と彼女は落付いた微笑を浮べながら云った。

「そうでしたかしら……。」

 私は振向いて彼女を眺めた。それから、襟元の黒子ほくろが眼についた。彼女だったのだ……あのみさ子は。

 私は惘然として言葉もなく立竦んだ。

「鎌倉からの汽車の中だったように私は覚えておりますが……。」と彼女は云った。

 睫毛の長い黒目の小さな怪しい眼が、私を正面にじっと見つめながら笑っていた。私はあの時の無作法を揶揄されてるような気がして、冷たい汗が流れた。と共に、何ともいえない驚きを感じた。夫人は円満に出来上ってる女らしかった。どんな場合にも挙措を乱さないだけの沈着と、一寸文学をも弄べるだけの怜悧な才能と、家政をも整えてゆける手腕と、人を外らさぬ気転など、大抵の美徳を具えていて、その代り、特殊な官能や、不幸に対する理解や、熱烈な情操などは、可なり欠けてるらしく見えた。一口にいえば、円満な平凡な現代婦人らしかった。そういうことを、私は彼女の全身から直覚的に感じて、みさ子と彼女との間に、心の据え場に迷った。

「あの時の……あれはあなたでしたか。」と私は漸くにして云った。

「ええ。あなたはもうお忘れなさいましたの?」

「それでも、何だか別な人のような気がするんです。ほんとにあなただったのですか。……そんなら、実際あの時は失礼しました。いやにあなたの顔ばかり見まして……。私はあの時一寸変な……夢を考えてたものですから。」

 私は途切れ途切れにそんな風な滑稽な口を利いた。彼女は笑った。これから御交際を願いたいと云い出した。私はただ一言気のない返事をした。そして友と女画家との方へ戻っていった。

 暫くして私と友とは帰っていった。帰りながら私はN夫人のことを頭に浮べた。「下らないことを覚えていたものだな!」と考えた。そして彼女のことを頭の外に放り出した。郊外の野の上に、秋の晴々とした光りが一面に降り濺いでいた。私の心も晴々としていた。私はただみさ子のことを考えた。遠い昔の人ででもあるかのように、或る一定の距離を置いて、しみじみとしたやさしい眼差で、彼女は私を眺めていた。落付いた静かな微笑みが私の心に上ってきた。

 それから間もなく、私はみさ子の小説を書いた。

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