棣棠花
丰岛与志雄
翻译:王志镐
2017.12.29.
湖心有眼,映照晴空,映照流转白云,清澈悠久。若无二心,以其为友,遂与田宫之眼合为一体。不过是田宫之眼与湖心之眼合为一体,还是湖心之眼与田宫之眼合为一体,谁也无法分辨,这么一来,便见眼中飒飒摇动的各种世事物象在复苏。
田宫原打算从那些世事物象中隐遁,打算在意识上隐遁,于是来到这山中的湖畔。可是,为何不能完全逃避?为何从那里紧接着来到这样的地方?
这里是奥日光的丸沼温泉(位于厉木县日光市、华严瀑布以西地域)。离上越线的沼田火车站十二里。乘坐巴士在田地中的道路上奔驶,越过山顶,驶出片品河岸,逆流而上,从镰田镇右转弯,沿溪流而进,驶过白根温泉,便无人家,沿山道而上,好不容易才沿着丸沼湖绕到其东侧,北岸就是温泉旅店。建筑物虽然壮观,可在山林之间实在是一座孤立的房子。
从该旅店出发,沿着丸沼湖岸转了半圈,上了山道,到达菅沼湖。湖的东岸,有被称为山之家的山上小屋,在那旁边有帐篷村的设备。在那前面是不通车的步行道,越过金精山顶,就到达奥日光的汤元温泉。
田宫在丸沼温泉旅店栖下身来。浸泡在透明的洗澡水中,早晚两次就餐喝少量的酒,在湖畔逍遥自在。四面的山峦、深奥的原始森林、平静的湖面一片静谧。往往遇到背负背囊的旅游者和巴士,实在感到不可思议,被吓了一跳,心情因此被搅乱。为了平复心情,便眺望湖面,将湖心尽收眼中。那果然是湖心之眼,或者是它自身的眼。看得见那眼睛企图埋葬过去的一切。
湖畔的杂草内,有许多黄色的花,那是熟悉的棣棠花的颜色……
那是绫子因病卧床期间的事情。自从二月半左右卧病以来,变成了轻微的腹膜炎,从那时起一直没有好转。她最初听话地躺着,不过拖延久了就变得焦躁起来。
“我什么时候才能好啊……”
她孤零零地说,像是求助似的眼睛向上看着作为父亲的田宫。
“会好的……”
父亲避开了绫子的视线,从拉门的半截玻璃那里瞅了一眼庭院,在那角落里,挂着一丛翠绿的棣棠花的嫩叶。
“那棣棠花开的时候,就会好了,一定会好的。”
“棣棠花……”
她这么嘀咕着,孱弱地笑了。
然而,那棣棠花开了,又撒落了,绫子的病还是没有好。不但如此,而且还渐渐加重了。她已经有两次要说出棣棠花而没有说出。因为田宫话中维系着希望,眼看花开花落,却再无话可说。他的内心似乎产生了放弃的念头。
一声牢骚也不发,也不知道能不能痊愈,静静卧床的绫子的身影,与湖畔杂草相似的棣棠花的黄色,总的来说在湖心之眼扎下了根。然而这样的处置却让田宫感到疑惑。
到了傍晚时分,从西山一端落下去的太阳的残照还在湖面上漂泊。它既不是泡在水面上,也不是泡在水浅处,而是摇摇晃晃、一闪一闪地、那残照暂时漂浮着,然后变成小片到处分开了,渐渐地消失了。美妙无比,变幻无常。
残照消失了,可是却见到了令人不喜欢的情况。那是在几乎接近水面的水中偶然看见的。
还是在绫子病中发生的。说起这只小猫,是一只已经相当大的红色毛发的猫,也不知从哪儿来的。不过不是野猫,是被遗弃而迷路的,在那庭院里吃什么东西,细细一看,原来是一只家养的猫吐出来的食物。猫之类的动物,老是要舔身上的毛发,而如果它的胃无法承受这些毛发,它就把草叶和竹叶吞下去,使自己的胃发痒,再与饭粒什么的一起将毛发吐出来,那饭粒的旮瘩就被外来的猫吃了。因为并不是吃了毒物或生了病,所以并无害处,当它大口大口吃那些东西的时候,显得又脏又可怜,看来一定是肚子饿了。
田宫觉得讨厌,便用竹扫帚将那只小猫追着赶走。小猫与其说厚颜无耻,倒不如说相当的衰弱,虽然这样做有点勉强,还是将它朝大街方向轰了出去。
从那时起过了不久,那只小猫这次爬上了放置物品的房顶。田宫发火了,用晾衣杆将它打落下来。小猫也不叫,也不逃,蹲在了地面上。女仆朝这里走来,用竹扫帚尖对猫做了个扫地的动作,将它轰到了大街上相当远的地方。
那是第二天傍晚时分,办事回来的女仆说,那只小猫在有烧焦痕迹的路边奄奄一息呢。听了这话,田宫锁紧了眉毛。
也许小猫整个晚上一动不动地在路边作垂死挣扎,既没人接它回家,也没人给它食物,它孤零零地等待着什么,一声不响地安详地呆着,而且一直要等到什么时候啊?
那小猫的身影清晰地浮现在我的脑子里。今天还在湖面的残照中复苏了,它那身影与其说是可怜,不如说是悲哀。
田宫自己也被认为是这个大自然中的悲哀者。旅店旁边有榆树乔木林,突然闯了进去,只觉得身上发凉。盛夏气温达二十度以上便不升上去了,这不是土地的缘故,而是绿荫遮天的森林中的气压所致,使人感到自身的卑微渺小。从这森林中出来,还是一面沿着湖畔小道往前走,一面探寻着周围陌生的树木、什么桂树啦,山核桃树啦,却并没有产生什么兴趣。隐隐约约听到有溪流注入湖中的声音,小鸟的叫声也不时可闻,其身影却未见。
可见人世的营生,一切都是渺小的。然而这里却有一种哲人,沉闷的年轻人。
在丸沼和管沼之间,有通卡车的正道,如走的话有相当距离,虽然开辟了近处的小道。管沼湖畔金精岳山上的房屋那里,乘小船穿过湖面。左手仰望遥远的日光奥白根的秀峰,右手眺望海岬前端高耸着的八角堂废屋,从湖的躯体走里出来,从南岸上去。从这里直到丸沼的东岸,溪流沿着陡峻的石板道往下流。这个所在,俗称八丁瀑布,老道的路程为到八町的距离。溪流由管沼之水注入到丸沼,战时这里还有小水力发电站。管沼和丸沼的水位相差三百米左右,那水流仅仅是八町的距离流落下来的,可是到处形成了湍急的水流,八丁之所以成名就是因为这个。
管沼也好,丸沼也好,都有鲤鱼和鳆鱼,还放养着鳟鱼。鳟鱼的养殖所在远离丸沼的下游。有虹鳟和姬鳟两种。产卵期为春秋之交,并不是杂种。
捕获这些放养的鳟鱼只要是在管沼山的家附近。管沼是水深幽静的男性所在地,可是山上家附近的水明显较浅,地势明朗开阔,看来饵食较多,鳟鱼经常寄宿于此。我们在那里张网,还有垂钓。
作为掌握捕捉鳟鱼技术的人,在丸沼旅店有一个年轻人。他经常身上穿着雨衣,手里提着鱼笼,早饭后便外出,登上八丁瀑布的陡峭石板,从管沼后面乘小船一直划到山上的房屋,然后时而做些琐事,时而捕捉鳟鱼,黄昏时分,沿着同样的路线回来。那大致就是每天的日常活动了。
并不能大量地捕到鳟鱼,然而,旅店是必须充分接待宾客的地方,由于缺少作为名产的鱼,使经理很为困惑,而且也在与年轻人的交谈中表达了这样的怨言。年轻人会泰然回答:“真是想不到啊,自从这个野营村建成后,好像……”
与山上的房屋傍边建起的野营村一起,还并列着几膄出租小船。健康漂亮的年轻人乘着那小船巡游,虽然捕鳟鱼的网多为破损,有时如收起渔网,似乎也可以捕获鳟鱼吧。因为那年轻人觉得算不了什么,看见了也回避了。尽管对此并不在乎,每天到山上的房屋往来的捕获物不管多少,还是照旧张网。
冬天期间因为雪很深,便关闭了旅馆,大家下了山地皮也就有名无实,年轻人这期间干什么还未明确,他只是默默地继续做自己的事情。不管是如何考虑,看不到有什么不平呀野心呀,与大自然一样解决了。
通过这个人的哲人风格来看,世人的经营真的是卑贱。
在绫子生病期间,田宫家仅住着一个女仆,由于人手不够,需要临时寻找上下班的女仆。这儿那儿托人,意外找到几个人。她们大多是六十岁左右的老婆婆。早饭在对方自己的住宅做,从上午八时到下午五时来干活。田宫的爱人久子有一天拿着派头来了,查看病人的照料和家事。
据久子说,这些老婆婆都是家庭中不走运的人。
这其中一人叫K,对他的本来面目一无所知。年近七十,头发半白,虽然满脸皱纹却将背挺得笔直,似乎很结实的样子。似乎还负责管理干菜屋的裙带菜啦,精米所的麻袋修缮啦,煮饭等工作。虽然说话很谨慎,可是对饭菜多少是在行的。
山吹の花
豊島与志雄
湖心に眼があった。青空を映し、空に流るる白雲を映して、悠久に澄みきり、他意なかったが、それがともすると、田宮の眼と一つになった。田宮の眼が湖心の眼の方へ合体してゆくのか、湖心の眼が田宮の眼の方へ合体してくるのか、いずれとも分らなかったが、そうなると、眼の中がさらさらと揺いで、いろいろな人事物象が蘇って見えた。
それらの人事物象から、田宮は遁れるつもりだった。意識的に遁れるつもりだった。そしてこの山奥の湖畔に来た。だが、どうして、すっかり遁れきることが出来なかったのか。どうして、先方から追っかけて来たのか、こんな処まで。
此処、奥日光の丸沼温泉。上越線の沼田駅から十二里。バスで、畑中の道を走り、峠を越して、片品川の岸に出で、川を遡り、鎌田町から右へ切れて、渓流ぞいに進み、白根温泉を過ぎてからはもう人家はなく、山道を上り上って、丸沼湖畔に辿りつき、その東側を廻って行くと、北岸に温泉ホテルがある。建物は豪壮だが、林間の全くの一軒家だ。
このホテルから、丸沼湖岸を元へ半廻して、山道を上ってゆくと、菅沼湖に達する。湖の東岸に、山の家と称する山小屋があり、その傍にテント村の設備がある。それから先は車の通らない歩道で、金精峠を越して奥日光の湯元温泉に至る。
田宮は丸沼の温泉ホテルに身を落着けた。透明な湯に浸り、朝夕二度の食事に少量の酒を飲み、湖畔を逍遙した。四方の山々、奥深い原始林、なだらかな湖面、すべてが静謐だった。往々にして、リュックを背負った旅人やバスに出逢うと、実に思いがけない感じで、はっとさせられた。虚心が乱されたのだ。それを静めるために、湖水を眺めていると、その湖心に眼があった。それも果して、湖心の眼か、或いは彼自身の眼か。その眼には、過去に葬ったつもりのものが見える。
湖畔の雑草のなかには、黄色の花がたくさんあった。それが、山吹の花の色に通じてくる……。
綾子が病床にある時のことだった。二月の半ばから寝ついて、軽い腹膜炎とのことだったが、それがなかなか癒らなかった。初めはおとなしく寝ていたが、長引くにつれて、さすがに気持の焦れが出て来たらしかった。
「あたし、いつ癒るかしら……。」
ぽつりと言って、父の田宮を縋りつくようなまた訴えるような眼で見上げた。
「そうだなあ……。」
綾子の視線を避けて、障子の腰硝子から庭に眼をやると、その片隅に、一叢の山吹が薄緑の若葉をつけていた。
「あの山吹の、花が咲く頃までには、癒りますよ。きっと癒る。」
「山吹……。」
そう呟いて、弱々しく頬笑んだ。
然し、その山吹の花が咲いても、花が散っても、綾子の病気は癒らなかった。ばかりでなく、次第に悪化していった。彼女は山吹の花のことをもう二度と言い出さなかった。田宮の言葉に希望を繋いではいた筈なのに、花が咲きそして散ってゆくのを見ながら、何とも言わなかった。内心では、諦めの念が濃くなっていったのであろうか。
愚痴一つこぼさず、癒るかとも癒らないかとも聞かず、静かに寝ていた綾子の姿が、山吹の花の黄色に通う湖畔の雑草の花に、湖心の眼を通じて定着するのだった。そしてその処置に、田宮は迷った。
夕頃になると、西の山の端に没した太陽の残照が湖面に流れることがあった。水面とも水中浅くともつかず、ゆらゆらちらちらと、その残照はしばし漂い、そしてあちこちに小さく別れて、次々に消え失せていった。美しくもあり儚なくもあった。
だが、その残照の消えがたに、いやなものの姿も見えた。水面すれすれの水中に、ちらと見えた。
やはり綾子の病中だった。仔猫、といっても、もう可なり大きくなってる赤毛の猫が、どこからかやって来た。迷ったのか捨てられたのか、とにかく野良猫ではなかった。それが庭で何か食べていた。よく見ると、家に飼ってる猫の一匹が吐き出した食物だ。猫というものは、始終体の毛を嘗めるので、その毛が胃袋にたまると、草の葉や笹の葉を呑みこんで自ら胃袋を擽ぐり、飯粒などと一緒に毛を吐き出すことがある。その飯粒の塊りを、外来の仔猫が食べていた。もともと、毒物とか病気とかのために吐いたのではないから、害になるものではないが、それをむしゃむしゃ食べてるところは、浅間しくもあり穢ならしくもあった。きっと空腹だったのだろう。
田宮はいやな気がして、その仔猫を竹箒で追っ払おうとした。ところが図々しい猫で、箒の先でつっ突いてもなかなか逃げようとしなかった。図々しいというより寧ろ、だいぶ衰弱してるようだった。それを無理やり、往来の方へ追い出した。
それから暫くすると、その仔猫が、こんどは物置の屋根の上に登っていた。田宮は腹を立てて、物干竿で叩き落してやった。猫は鳴きもせず、逃げもせず、地面に蹲まってしまった。そこへ女中が来て、猫を竹箒の先で掃き去るようにして、往来の可なり遠い所へ追っ払ってくれた。
それは夕方のことだったが、その翌日、用達しから帰って来た女中が言うのには、あの仔猫が焼跡の路傍にしゃがんでいたそうである。それを聞いて、田宮は眉根をしかめた。
仔猫はおそらく、一晩中、その辺にじっとしゃがんでいたのだ。家にも入れて貰えず、食物も与えられず、しょんぼりと何かを待ちながら黙りこんでじっとしていたのだ。いったい、何を待っていたのであろうか。そしていつまでそうしていることであろうか。
その仔猫の姿が、はっきり脳裡に浮んだ。今もまた、湖面の残照の中に蘇ってきた。浅間しいというよりは、哀れな悲しい姿だった。
田宮自身、この大自然の中にあっては、哀れな悲しい者と自ら思われた。ホテルの横手に楡の喬木の林があり、その中に踏み込むと、ただほろ寒かった。盛夏でも気温二十度以上には昇らないという土地の故ではなく、空を蔽う欝蒼たる森林の気に圧せられて、自分自身が卑小に卑小に感ぜられた。その林から出て、また湖畔の道を辿りながら、あまり見馴れない樹木、桂だの沢胡桃だのを探しあてても、感興は湧かなかった。湖に注ぐ渓流の音はかすかであり、小鳥の声が時には聞えても、その姿は見えなかった。
人の世の営みが、すべて微小に見えた。そしてここには、一種の哲人めいた若者がいた。
丸沼と菅沼の間、トラックの通る本道を行けば相当の距離がある。だが、近い裏道が開けていた。金精峠の麓、菅沼湖畔の山の家の所から、小舟に乗って湖を突っ切る。左手遙かに日光奥白根の秀峰を仰ぎ、右手の岬の先端に聳えてる[#「聳えてる」は底本では「聾えてる」]八角堂の廃屋を眺め、湖の胴体に出て、それから南岸に上る。ここから丸沼の東岸まで、渓流沿いに急峻な坂道を下るのである。ここの所を、俗に八丁滝と呼ばれている。旧道程で八町の距離。渓流は菅沼の水が丸沼に注ぐもの。戦時中はここに小さな水力発電所があった。菅沼と丸沼との水位の差は三百メートル近くあり、その水が僅か八町の距離で流れ落ちるのだから、至る所に急湍を作り、八丁滝の名がある所以だ。
菅沼にも丸沼にも、鯉や鮒の類が住み、鱒が放流してある。鱒の養殖所は丸沼の遙か下方にあって、虹鱒と姫鱒の二種。産卵期が春と秋に分れてるので、雑種になることはない。
この放流の鱒を捕るのは、主として、菅沼の山の家の近くだった。菅沼は水深く幽寥で男性的だが、山の家の近くは、水がわりに浅く、地勢が明るく開け、餌食も多いとみえて、鱒がよく寄りつく。そこに網を張り、または釣りを垂れる。
鱒捕りの技術者として、丸沼ホテルに一人の若者がいた。たいてい雨合羽をまとい、魚籠をさげて、朝食後出かけてゆき、八丁滝の急坂を登り、菅沼尻から小舟で山の家まで漕いでゆく。それから雑用をしたり、鱒を捕ったりして、夕刻、同じ道筋を帰ってくる。それが殆んど日課だった。
鱒はたくさんは捕れなかった。けれども、ホテルで充分の接待をしなければならない賓客がある場合など、名物の魚を欠かしたくないので、それが不足するとマネージャーは困った。そして若者に、何とかならないかと小言交りに言うのだった。若者は泰然と答えた。
「思うようになりませんよ。ことに、あのキャンプ村が出来てからは、どうも……。」
山の家のそばには、キャンプ場が出来ると共に、貸ボートが数隻並んだ。元気のいい青年たちがそのボートを乗り廻して、鱒網を破損することが多いばかりか、時によるとわざわざ網を引き揚げて、鱒を取ったりすることがあるらしい。それを若者は平気で見遁していた。そしてやはり平然と、毎日のように山の家まで往復して、獲物が多かろうと少なかろうと、網を張ってるのだった。
冬期は雪が深くて、ホテルも閉鎖し、一同山を下る土地なので、若者がその期間に何をしてるかは不明だが、ホテルが開かれてる間、彼はただ黙々として己が仕事をやり続けてるのだった。何を考えてるのか、不平も野心も影さえ見えず、大自然と同様に落着き払っていた。
この、哲人的風格を通して見ると、世の人の営みはまことに卑賤だった。
綾子の病気の頃、田宮の家には若い女中が一人いるきりで、手不足だったから、臨時に、通勤の女中を探すことにした。あちこち頼んでみると、案外に幾人も見付かった。それがたいてい、六十歳前後の婆さんなのだ。朝夕の食事は先方の自宅ですまして、午前八時頃から午後五時頃まで働いてくれる。田宮の愛人の久子が、一日おきぐらいにやって来て、病人の世話や家事をみていた。
久子の言うところによると、それらのお婆さんはみな、家庭的に不仕合せなひとばかりだった。
其中一位名叫K先生的先生,是个不太懂得体态的人。年近七十,头发花白,满脸皱纹,但个子高大,看起来很结实。据说他曾在干货批发商的海带捆扎、精米厂的麻袋修补和饭炊工作过。不过他说话文雅,对料理也有些讲究。
家里住着一对父子,K先生的主人整天闲逛,既照看孙子又做些家务,晚上总爱喝上一杯小酒。K先生是个烟鬼,连田宫的烟头都收来抽了。他做事偷懒,看得见的地方照着吩咐收拾,看不见的地方就偷工减料。总找各种借口,经常偷着溜出去休息。
“我老婆现在情绪特别不稳定,一点小事就抓狂大吼,整天就想着欺负我。”K先生这样说道,但后来发现这其实是谎言。据认识K先生家的人透露,其实他老婆是个注重仪表、做事认真的好女人,只是因为K先生做事拖沓,所以总被人说三道四。
田宫东拉西扯地,终于给K先生腾出了时间。
还有位叫N先生的客人也挺特别。这位五十岁左右的中年男子为人稳重,身材结实。我们原本希望他能长期住下。据照顾过他的家人说,他之前在电车街某户人家工作,那地方太吵闹,晚上根本睡不着,现在想找个安静的住处。虽然听起来有些离奇,但总算把这位客人接来了。田宫把接待工作交给了正在帮忙的久子。
「既然要外出公事,想必您也有自己的难处,家里可能也有些烦心事吧。不过我们这儿是您放心的家,还请别有不快。」久子说完,N先生便低着头擦了把眼泪。后来他找了个借口,临走时又说了句。
“只要住上一天,就能看清这房子的状况。要是您觉得我合适,那我后天就来。”看他人品不错,干脆就取消了见面,直接约好了来。
然而那天返程途中,N先生特意去照看人家里转悠,结果被田宫婉拒了。原来对方说猫咪实在不配合。
「每次看到猫,我都会不寒而栗。特别是这只毛茸茸的白猫,浑身透着股子邪气……」虽然和N先生的交情就此结束,但这段感情从头到尾都让我心里堵得慌。
说到F先生,他是个和善的人。这位七十岁左右的矮个子老人勤勤恳恳工作,面容清秀,身材匀称,留着利落的山羊胡。虽然只是个跑腿的,但遇到忙的时候也会留宿。他总是勤快地来回走动,连最细微的疏忽都嫌不得。一有空闲,就会主动打扫橱柜、整理餐具、修剪庭院杂草,还让年轻女仆帮忙熨烫衣物。他经常照顾病人,绫子对F先生特别有好感,每次听他讲起往事时都会忍不住笑出声来。
F女士家中有四口人:身为榻榻米匠人的儿子夫妇,以及年幼的孩子。每当攒够钱,她就盼着给孙辈们买些礼物。靠着儿子的手艺养家糊口,F女士外出工作,既是为了养老积攒零花钱,也是为了给孙辈们准备礼物。
“家里媳妇来了,连给我的汤钱都不吝啬呢。”F先生说着笑了起来。
“您说这话不正经吗?我待在家里,您就指望奶奶能出去工作?要是不在家,她到底在哪儿呢?我一生气就骂她‘脏兮兮的邋遢奶奶’。所以我必须回怼:‘您家孩子什么时候才像我这样,整天把脏东西往地上一撒?’」F先生得意地笑了。他性格开朗直率,但脸上却始终带着几分忧郁的神情。对F女士来说,和妻子吵架这件事,或许也算是一种发泄方式吧。
此外,还有许多不同背景的人聚集在各处。大多是年长的女性,作为女佣她们更希望通勤而非长期居住。虽然通过某种关系与家庭保持着联系,但她们对家庭生活缺乏兴趣。久子这样对田宫说道。
“用上了年长的女佣,不,说是您在用她们,总觉得有点怪怪的。再说年轻女佣越来越少,反而能随便找个年长的女佣,这到底是怎么回事呢?其实我们自己和朋友们的观念,都和过去不一样了……” 这句话说的其实是亲子关系,尤其是母亲与子女的关系。孩子一旦被抚养长大并结婚,就不再是母亲的了。儿子成了儿媳的,女儿成了儿媳的。往后再也无法指望别人了。唯一能依靠的只有自己……
そのうちの一人、Kさんというのは、ちょっと得態の知れないひとだった。年は七十に近く、髪は半白で、顔中皺だらけだが、背が高くて頑丈そうだった。乾物問屋のワカメ束ねだの精米所の麻袋繕いや飯焚きだのに働いたこともあるそうだ。だが、言葉は丁寧で、料理の心得も多少あった。
家には、息子夫婦がおり、Kさんの亭主はぶらぶら遊んでいて、孫の守りをしたり手内職をしたりして、晩に一杯の晩酌をするのが楽しみだそうだった。Kさんは煙草が好きで、田宮の吸い殼までも貰って吸った。働きかたがずるくて、目に見えるところは言われた通りに片付けるが、見えないところは手を抜いた。何かの口実を設けてはよく休んだ。
「嫁が、ひどいヒステリーでございまして、ちょっとしたことにもがみがみ怒鳴りますし、わたくしをこき使うことばかり考えてるんですよ。」
Kさんはそう言ったが、それが実は嘘だと分った。Kさんの家を知ってるひとの話では、嫁さんはきれい好きなきちんとしたひとで、Kさんがだらしないものだから、いつも小言を言われてるのだそうだった。
それやこれやで、田宮はKさんに暇を出した。
また、Nさんというひともおかしかった。五十ぐらいの年配で、しっかりした人柄のようだし、身形もきりっとしていた。これは泊り込みが希望だった。世話した人の話では、或る家に勤めていたが、それが電車通りで、うるさくて夜もろくに眠られなかったから、暇を貰ってるので、どこか静かな家に勤めたいとのこと。へんな話だが、とにかく目見えに来て貰った。田宮は来合せていた久子に応対を任せた。
「よそに出て奉公なさるというからには、なにか事情もおありでしょうし、家の中が面白くないというようなこともおありでしょうが、こちら、気兼ねのない家ですから、らくな気持ちでいて下さいよ。」
そんなことを久子が言うと、Nさんは顔を伏せて涕をすすった。それから何かと用をして、帰りぎわに言った。
「一日いてみますと、そのお家の様子はよく分ります。わたくしでお宜しかったら、明後日から参ることに致します。」
人柄もよさそうだし、目見えを打ち切って、来て貰うことにきめた。
ところが、その日の帰り途に、Nさんは世話人の家に立ち寄って、田宮のところを断ったのである。猫がいやだというのだった。
「わたし、猫を見ると、ぞーっとするんですよ。それに、あすこの猫、白無地ときてるんでしょう、気味がわるくて……。」
Nさんとはそれきりになったが、どうも、初めから終りまで腑に落ちないことだった。
それから、Fさんというのはいいひとだった。七十歳ばかりの小柄なひとで、忠実によく働いた。顔立もととのい、身ぎれいで、モンペをきりっとつけていた。通いの勤めだったが、用の多い日は泊ってくれた。始終こまめに動き廻って、ちょっとでも手をあけてることがきらいだった。用事がなくなると、自分から進んで戸棚の中を掃除したり、食器を整理したり、庭の草をむしったり、若い女中にせっついて衣類の繕い物を出させたりした。そしてよく病人の世話をした。綾子もFさんに好感を持っていて、その打明け話に笑い声を立てた。
Fさんの家には、畳職人である息子の夫婦と、小さな子供が四人いた。Fさんは金がたまると、その孫たちに物を買ってやるのが楽しみだった。息子の働きで一家の生計は立っていたので、Fさんが外に出て働くのも、自分の老後の小遣と孫たちへの贈物とのためだった。
「家の嫁ときたら、わたしにお湯銭をくれるのさえ惜しがるんですよ。」
そんなことを言ってFさんは笑った。
「それに、言うことがいいじゃありませんか。わたしがこうして家にいるからこそ、おばあちゃんは外に働きに行けるんじゃないか、ですってさ。家にいないとすれば、どこにいるつもりなんでしょうね。気が立ってくると、糞ったればばあ、とぬかすんですよ。だからわたしは言い返してやります。いつわたしが糞をたれた、お前さんの子供こそ、いつも糞をたれ流しじゃないか……。」
Fさんは得意そうに笑った。開けっ放しの朗かな性質なのだ。けれども、なんだか淋しそうな影がないこともなかった。嫁との喧嘩の話も、Fさんにとっては一種の愚痴だったのだろう。
そのほか、いろいろなひとがあちこちにいた。たいてい老年の女で、女中としては住み込みよりも通勤を望んでいた。何等かの関係で家庭に繋がりながら、その家庭内が面白くなかったのである。久子は次のように田宮へ言った。
「年寄りの女中を使っていますと、いえ、あなたが使っていらっしゃると、なんだかへんな気がしますわ。それに、若い女中が少くなって、年寄りの女中がいくらも見付かるというのは、どういうことでしょうか。でも実は、あたしたち自身、お友だちなんかもみな、昔とは違った考え方をしておりますし……。」
それはつまり、親と子の関係、殊に母親と子の関係についてだった。子供というものは、育て上げて結婚させてしまえば、もう母親のものではなくなる。息子は嫁のものになってしまうし、娘は夫のものになってしまう。後々までの頼りにはならない。頼りになるのはただ自分だけだ……。
田宫心想,这本是理所当然的事。可命运弄人,因家境所迫,年过五十,到了六七十岁,竟不得不去外家当女佣,这般境遇着实令人唏嘘。K女士、N女士、F女士,还有那些婆婆们的身影,都浮现在眼前。
在原始森林中漫步时,处处不见纷争的痕迹。茂盛的枝叶自然舒展,枯萎的藤蔓随风摇曳,缠绕的藤蔓与枝干浑然天成。没有争执,没有抵触,整个世界都保持着和谐共生的默契。置身这般天地间,又怎会想起那些昔日的老婢们?田宫踱步良久,走累了便泡在温泉里。
走廊尽头的独立建筑里,有一间百余畳的宽敞厅堂。舞台般的高台上,四面立着两根约两抱粗的天然巨木柱。当我躺在厅堂正中央仰望高耸的天花板时,比起置身森林更觉凄凉,心中涌起难以言表的惆怅。或许是因为人事的幽灵正从暗处投来阴影吧。
田宫一直期盼着暴风雨、雷声轰鸣或是天地震颤的天气。然而,平静的日子却持续不断。
有时天空半边会被乌云遮蔽。我曾到湖边查看情况,但总是判断失误。乌云从燕巢山方向一直聚集到四郎岳一带,但风向却从相反方向吹来,天气逐渐放晴。
湖面的风突然长叹一声。它猛地掀起浪尖,随即归于平静,稍作停歇后又在不经意间再度袭来。风向变幻莫测,时而从右方吹来,时而从左方掠过。水面的浪尖相互碰撞,时而形成漩涡翻腾。
在这片漩涡般的混乱中,飘浮着一片泛黄的树叶。它缓缓旋转,时而静止,时而旋转,不知不觉间被吹向了远方。田宫紧盯着它,直到那片叶子渐渐缩小直至消失,突然间心头一震。“久子...”他不由自主地在心底呼唤着。
她最终从清晨到深夜,几乎彻夜不眠,次日又从早到晚,反复向田宫诉说各种事情。
“仿佛被卷入巨大的漩涡,一切都变得毫无头绪。只觉得浑身污秽不堪,那腐臭的气味令人窒息。是时候说再见了。”次日,她服下毒药企图自杀。所幸那剂毒药并非存放在遮光的有色罐中,而是被长期置于普通玻璃罐里,因岁月侵蚀已严重变质,未能完全生效,最终保住了性命。
绫子去世已有一年。她生前虽已年过花甲,却仍活了两个半月。在这段日子里,她将年幼的久子视如己出,既像母亲又像姐姐般悉心照料。待她离世后,久子不仅比护士更早处理遗体,还比田宫的亲戚们更早操办了葬礼。然而接下来的一年,她始终无法释怀。
什么是阴谋诡计?它如同一个交织着嫉妒、怨恨、阿谀奉承、私欲等种种因素的告密渠道,通过掺杂真假的密告,加上精心设计的伪装手段,最终演变成世间最肤浅的伪装形态。现在,让我们按时间顺序,将久子所听到的事件概要逐一梳理。
A女士——田宫先生这人冷酷得很。久子小姐虽然没本事,但就是对我有好感,我实在不忍心让她被冷落,所以一直默默支持她,直到她厌倦为止。虽然没明说,但总在暗示我。仔细想想,倒像是她对我没好感,这样反而更合适。
B男——要是跟田宫君混在一起,准会惹上麻烦。他天生就爱不起来人,就算真想爱,也只会爱自己。像你这种只会单方面追求、毫无分寸的人,跟田宫君的关系根本维持不了多久。
C女士——田宫先生最近对晴子女士赞不绝口,说她温婉可人、待人接物很温柔,真是个有女人味的典范。您可曾见过晴子女士?虽然我并不认识她,但您应该算是她的人妻吧。这样的人妻,您能这么夸奖吗?
D女士——我心中始终有个挥之不去的愧疚。那是很久以前的事,虽然只发生过一次,但田宫先生曾亲吻过我。当时他已醉得不省人事,可我却始终难辞其咎,为此困扰良久。后来想到向您倾诉或许能平复心情,便强忍羞涩向您坦白了。
E女——田宫先生,我跟您早有交情,但您这人实在难缠。整天满嘴跑火车,像瓢箪鲶(注:日本传统谚语,形容人无用之物)般空谈,根本抓不住重点。您这边说什么都是马耳东风(注:日本谚语,形容对人无动于衷)。跟这种人打交道,您准会折断骨气。不过您倒是抓住尾巴,死死捏住不放,这样倒也挺好。
F先生——您可得当心了。您应该认识田口这个人吧?他之前说过,久子和田宫之间,似乎对久子有几分色欲缠绵的意味。这可不是能随便听进去的。再说,您要是从田宫那儿收到什么礼物或零花钱,那另当别论,但您应该不会真有这种事吧。所以您可得当心了。
G女士——我从某处听说了田宫先生的往事,了解得挺清楚。说来田宫先生和前妻结婚那会儿,其实他一直爱着妹妹。可不知怎么的,最后还是和姐姐成婚了。虽说这在社会上是常有的事,但话说回来,这故事也确实挺俗气的。
H女士——久子小姐,我来给你讲个有趣的故事。听说您和田宫先生一起收买了这个年轻女仆,让她当间谍。田宫先生那里偶尔会有女客人光顾,您就趁机让女仆当间谍。我当然不信这种事,也了解您的为人。所以才拿这事开玩笑。虽然不知道这传闻从何而来,但您说这故事挺有意思吧?
除此之外,还有太多话想说。就算把二十六个汉字排成一列,恐怕也说不完。不过,真正滔滔不绝的不是众人,而是她一个人。关于每一件小事,久子都向田宫倾诉,哭得撕心裂肺。
“我只想活得清清白白、坦坦荡荡。可偏偏因为这样,反倒开始责备你、责备别人,整个人都变得歇斯底里起来,这让我感到无比悲哀。现在我连自己都厌恶,整个世界都让我厌恶。一切都变得污浊不堪。让我们分手吧,为了那份纯粹的爱,让我们彻底分开。”田宫不知该如何安慰她,也不明白久子的心情为何如此揪心。更令他震惊的是,她竟做出了自杀未遂的举动。她原本过着相对自由自在的生活,绫子去世后便在自家和田宫家之间来回奔波。服毒事件发生在自家的卧室里,但因伤势严重,她被紧急送往附近的小医院。
田宫赶到时,她正侧卧着。几乎停止了呼吸,面如死灰,苍白如蜡。枕头上,她信任的朋友百合子正依偎在身旁。
她闭着眼睑良久。忽然,长长的睫毛微微颤动,随后缓缓睁开眼,目光停留在田宫脸上。那眼神仿佛漫不经心地凝望着什么。突然,泪水如潮水般涌出,眼眶再次湿润。田宫摸索着握住她的手,却只是漫不经心地松开。她始终没有开口。
百合子心里还是一头雾水,事情的来龙去脉始终没搞明白。
五天后,久子出院回家休养。
それはそれでよいし、寧ろ当然なのだ、と田宮は思った。それにしても、境遇により、家庭の事情によって、五十を過ぎてから、六十や七十にもなって、よその家の女中働きに出なければならないというのは、惨めなことに違いなかった。KさんやNさんやFさんや、その他の婆さんたちの姿が、眼に浮んだ。
原始林の中をさまよっても、そこには齷齪したトラブルは少しもなかった。伸び茂るもの、立ち枯れるもの、他物に絡みつくもの、みな自然にそうなっていた。争いも抵抗も見られず、全体に連帯性的な調和があった。その中にあって、嘗ての老婢たちのことなどを、どうして思い出すのだろうか。田宮はやたらに歩き廻った。歩き疲れると、湯につかった。
廊下続きの別棟に、百畳余りの広間があった。舞台めいた高壇には、二抱えほどもある自然木の巨大な柱が四方に立っていた。その広間の真中に寝そべって、高い天井を仰いでいると、森の中にいるよりは一層淋しく、心許無い気持ちになった。人事の幽鬼の影がさしてくるからだったろうか。
なにか、暴風雨とか激しい雷鳴とか、天地を揺ぶるようなものを、田宮は待ち望んだ。然し、穏かな日が続いた。
時とすると、空の半面を黒雲が蔽うこともあった。湖畔に出て様子を窺ったが、いつも当が外れた。黒雲は燕巣山の方面から四郎岳の方面にかけて屯していたが、風は反対の方から吹き、徐々に晴れていった。
湖面に吹きつける風は、長い息をついた。さーっと波頭を立てておいて、すぐに静まり、暫く間を置いて、思いがけない時にまたさーっと来た。方向も一定せず、右からも吹き左からも吹いた。水面の波頭がぶつかり合って渦巻くこともあった。
そういう渦巻きの中に、どこから舞い落ちたか、一枚の黄ばんだ木の葉が浮いていた。ゆるく廻り、また静止し、また廻り、いつとなく沖の方へ吹きやられていった。それを田宮はじっと眺めていたが、次第に小さくなり見えなくなる頃になって、はっと心を打たれた。久子、と思わず胸の中で呼んだ。
彼女は最後に、朝から終日、そして殆んど徹宵、次の日も終日、徹宵して、さまざまなことを繰り返し田宮に訴えた。
「大きな渦巻きの中に巻き込まれたような気持ちです。もう何もかも訳が分らなくなりました。ただ穢らわしい。腐ったような臭気には堪えられません。お別れしましょう。」
そしてその翌日、彼女は毒を仰いで自殺をはかった。幸なことに、その毒薬が、遮光の着色壜にでなく、普通の硝子壜に長年月の間入れられていて、可なり変質していたため、充分に利かず、彼女は生命を取り留めることが出来た。
綾子が亡くなってから一年後のことだった。綾子は山吹の花が散ってしまってからまだ二ヶ月半ばかり生きていた。その間彼女は、年齢の差から見れば母親とも姉とも言えない久子を、母のようにも姉のようにも頼りにした。そして彼女の死後、久子は看護婦に先立って死体の始末をし、田宮の親戚の者に先立って葬儀を取り計らった。だが、その後の一年間がいけなかった。
渦巻きとは何であったか。嫉視、反感、阿諛、利慾、その他さまざまなものが入交った告げ口、真偽とりまぜたものに尾鰭をつけ色合を変えた密告で、人の世の最も浅間しい姿だった。久子が聞かされた事柄の概略を順序不同に列挙してみよう。
A女――田宮さんてずいぶん冷酷なかたね。久子さんはどこといって取り柄はないが、ただ僕を慕っていてくれるから、突っ放すのも気の毒で、先方から倦きるまで、まあそっとしておいてやってるんです、とそんなことを、はっきりは仰言らないが、それとなくあたしに匂わせなすったことがあります。邪推をすれば、むしろあたしの方に気がおありなさるようにも、取れるじゃありませんか。
B男――田宮君にくっついていられると、きっと不幸な目に逢いますよ。彼は性格的に、ひとを愛することは出来ません。もし愛するとしても、自分自身をしか愛しはしません。それに、あなたのように、ただ向う見ずで一徹なだけで、センスの乏しいひとは、田宮君との仲が長続きはしませんよ。
C女――田宮さんはこないだ、晴子さんのことをたいへん誉めていらっしゃいましたよ。しとやかで、やさしくて、ほんとに女らしいひとですって。あなた、晴子さんにお逢いなすったことがありますか。あたしは晴子さんてかた存じませんけれど、でも、あのかたはひとの奥さんでしょう。ひとの奥さんを、あんなに誉めていいものでしょうか。
D女――わたくし、ただ一つ心に咎めることがございます。もうだいぶ前のことで、たった一度でしたけれど、田宮さんからキスされました。その時、田宮さんはひどく酔っていらっしゃいましたけれど、それでもわたくしの方では、心に咎めて、長い間悩みました。そして、そのことをあなたにお打ち明けしたら、気が静まるだろうと思いまして、恥をしのんで申上げることにしました。
E女――田宮さんは、わたしは昔から懇意なんですが、始末のわるいひとでしてね。いつものらりくらりしていて、瓢箪鯰で、つかまえどころがありません。こちらから何を言っても、すべて馬耳東風ですからね。あんなひと相手では、あなたも気骨が折れることでしょう。ひとつ、尻尾をつかまえて、ぎゅーっと締め上げてやりなさるが、宜しいですよ。
F男――あなたは用心なさらなければいけませんよ。田口というひとを御存じでしょう。あの田口が、言っていました。久子さんと田宮さんのことでは、久子さんの方に、どうも色慾二道の気味合いがあるようだと。これは聞き捨てならないじゃありませんか。それとも、あなたが田宮さんから、なにか品物を貰うとか小遣を貰うとか、そんなことが少しでもおありなさるなら、話はまた別ですが、そうでもないでしょう。だから、用心なさらなければいけません。
G女――あたしは、田宮さんの昔のことを、或るところから聞いて、詳しく知っております。田宮さんが先の奥さんと結婚なさる時のことですが、ほんとは、田宮さんは妹さんの方を愛していらしたんですって。それが、どうしたことか、姉さんの方と結婚なすってしまいました。まあ世間にはよくあることですが、それだけにまた。ずいぶん俗っぽい話ですわ。
H女――久子さん、面白いことを聞かしてあげましょうか。あなたが、田宮さんとこの若い女中を買収して、スパイをさせてるというんですよ。田宮さんとこには、たまに女のお客さんもあるでしょう。そんな時、どういう様子か、あなたが女中にスパイをさせてるんですって。あたしは勿論、そんなことを信じませんし、あなたの性質もよく知っています。だからこうして、笑い話にしているんですよ。どこからそんな噂が出たか知りませんが、ずいぶん面白い話じゃありませんか。
その他、まだまだ沢山あった。アルファベット二十六字を並べても足りなかったろう。もっとも、そんなに多くの人が言ったのではなく、一人で幾つものことを言った。その一つ一つのことについて、久子は田宮に訴えて泣いた。
「あたしはただ清らかに素直に生きたかったのです。それが、あなたを責めたり、他人を責めたり、まるでヒステリーみたいな様子になってしまった、そのことが悲しいんです。もうつくづく自分がいやになり、世の中がいやになりました。何もかも穢らわしいという感じです。お別れしましょう。清い愛情のために、お別れしましょう。」
田宮はどう言って慰めてよいか分らなかった。また、久子の気持ちがさほど切羽つまったものだとも理解しなかった。そして彼女の自殺未遂に接して駭然とした。彼女はわりに自由な気楽な境涯にあったので、綾子の死後は、自宅と田宮の家とに半々ぐらいの生活をしていた。服毒は自宅の居室でしたが、手当のためにすぐ近くの小さな病院に担ぎ込まれた。
田宮が駆けつけて行った時、彼女は横向きに寝ていた。殆んど呼吸もしていないかのようにひそと静まり、顔は血の気を失って蝋のようだった。枕頭には、彼女が信頼してる友の百合子が附き添っていた。
彼女は暫く瞼を閉じたままだった。やがて、その長い睫毛がちらと動いた。それから静かに眼が開いて、田宮の顔を見た。ただ無心に眺めてるような風だった。ふいに涙がはらりとこぼれて、眼はまた閉じた。田宮は手探りに彼女の手を執ったが、その手はだらりと任せられてるきりだった。何も言うことはなかった。
百合子にはまだ、事情がはっきり分っていなかった。
五日後、久子は退院して自宅で静養することになった。
「暫く、考えさして下さい。あなたも考えておいて下さい。一週間ばかり、お目にかからないことに致しましょう。」
久子のその申し出を田宮は素直に受け容れて、この山奥の丸沼温泉に来た。
考えることは何もなかった。考えないために、すべてを頭の外に放り出しておきたかった。そしてただ感じたのは、久子のない生活というものが無意味空虚であるということだった。過去にずいぶんでたらめな生活をしてきた田宮にとっては、この愛情の発見がいささか意外でさえあった。
彼はその時を、何の時かもよく分らぬその時を、ただ待っていたい気持ちだった。そして、ただ待つということは、死を思うことと、紙一重で相通ずるものだと知った。ほんの一歩の差で、彼は自決しかねなかった。
然而,从中心向外漂移的那些无趣事物,竟如镜中倒影般清晰浮现——小猫、绫子与山吹、老婢们,还有其他种种。此刻湖面上,一片树叶正缓缓旋转着向湖心漂去。方向不明的风在盘旋,混乱的漩涡在翻腾。那片树叶岌岌可危,不知何时会沉入水中。这不正是久子的影子吗?或许正被世俗的漩涡卷入,随时可能沉没。
田宫从倚着的树干上下来,快步离开湖畔。湖心那团黑影,不知怎的,总让人感到不安。
穿过酒店门前的辽阔草原,便来到一条清澈见底的溪流旁。溪岸上檀麻由美那棵参天大树枝繁叶茂,枝头缀满黄紫相间的娇小花朵,已有果实累累,红润的果肉清晰可见。田宫折下最艳丽的一枝,带回房间后,便唤来女仆借来便携花瓶,将檀枝轻轻抛入其中。
黄紫相间的簇拥小花,泛着红晕的娇嫩果实,当它们映衬在枝条椭圆形的叶背时,显得格外惹人怜爱。田宫凝神静坐,试图平复心绪。既不想让内心躁动,也不愿让湖心的双眼泛起波澜,此刻最需要的,是某种温柔的抚慰。
檀木的花、果、叶都历久弥新,始终保持着艳丽的光泽。可日复一日朝夕凝望,渐渐变得习以为常,再难寻得往日的趣味。就在这时,托付我所有事务的百合子打来电报。
――久子,你这身板子和心都元气满满啊!赶紧回来,下楼去吧。
田宫猛地站起身,舒展全身。丸沼和菅沼已无牵挂,连死亡的念头都抛诸脑后,只愿救下久子。绫子虽已死去,但久子依然活着。
虽然人们常说山吹花不会结果实,但田宫心里清楚事实并非如此。至少在他家的山吹花丛里,结满了褐色的小果实。虽说开花也挺好,但总想让花儿多结些果实。至少人事部该这么想才对。想到自家山吹花会结果实,田宫顿时精神一振。这可不是什么感伤。他立刻去酒店要了账单,查了返程时间的旅行指南,给百合子写了封电报,然后收拾好行李。
それにしても、中心からそれたつまらないことが、なんと鮮明に浮んできたことか、仔猫だとか、綾子と山吹だとか、老婢たちだとか、なおその他のいろんなものまで、湖面の鏡に映った。そして今、その湖面には、一枚の木の葉が、くるりくるりとゆるく回転しながら、湖心の方へ流されていた。方向の定まらぬ風の吹き廻し、そして気紛れな渦巻き。あの木の葉は危かった。いつ沈むか分らなかった。それがそっくり、久子の姿ではなかったか。俗世の渦巻きに巻き込まれて沈んでしまうかも知れなかった。
田宮は倚りかかっていた樹の幹から離れ、足早に湖畔を立ち去った。湖心の眼がなにかしら怖かった。
ホテルの玄関前の広い草原を横切って行くと、澄みきった山水がさらさらと流れてる渓流に出る。その岸のほとりに、檀まゆみの大きな木が茂っていた。黄と紫とに染め分けた小さな花を一杯つけていたが、既に果実を結んでるのもあって、紅い果肉も見えていた。その最も美しそうな一枝を、田宮は折り取って、室に帰った。女中を呼んで、手頃な花瓶を借り、檀の枝を投げ入れた。
黄と紫との二色になってる小さな花の群れ、紅みの見える小さな果実、それを小枝の楕円形な葉裏に眺めると、如何にも可憐だった。田宮はそこにじっと気持ちを集めようとした。心が荒立たないように、湖心の眼が荒立たないように、何かのやさしい情緒がほしかった。
檀の花も実も葉も、なかなか萎れず、艶が褪せなかった。でも、朝夕それを眺めてるうちに、次第に見馴れて、もう一向に面白くもなくなった。丁度その時、万事を託しておいた百合子から電報が来た。
――久子、身モ心モ元気ニナッタ。スグニ帰ッテ来テ下サイ。
田宮は立ち上って、思いきり伸びをした。もう丸沼にも菅沼にも心残りはなかった。死を思うことも止めにして、そしてただ、久子だけは救ってやりたかった。綾子は死んだが、久子は生きていた。
山吹の花のあと、実は結ばないと言われているが、必ずしもそうでないことを田宮は知っていた。少くとも彼の庭の山吹には、褐色の小さな実がいくらも結んだ。花だけでもよろしいけれど、なるべく実を結ぶ花でありたかった。せめて人事はそうでありたかった。自宅の山吹の花は実を結ぶことを思って、田宮は気力が出た。それは感傷ではなかった。彼は直ちにホテルの勘定書を求め、旅行案内をくって帰途の時間を調べ、百合子宛の電報を書き、そして荷物をまとめた。