橖梨花(中)
(译自青空文库)
丰島与志雄
翻译 王志镐
然而,那棣棠花开了,又撒落了,绫子的病还是没有好。不但如此,而且还渐渐加重了。她已经有两次要说出棣棠花而没有说出。因为田宫的话维系着希望,眼看花开花落,却无话可说。他的内心似乎死心的念头变浓了。
然し、その山吹の花が咲いても、花が散っても、綾子の病気は癒らなかった。ばかりでなく、次第に悪化していった。彼女は山吹の花のことをもう二度と言い出さなかった。田宮の言葉に希望を繋いではいた筈なのに、花が咲きそして散ってゆくのを見ながら、何とも言わなかった。内心では、諦めの念が濃くなっていったのであろうか。
绫子从不发牢骚,也不问能不能治好,只是静静地躺在床上,她的身影通过湖心的眼睛,固定在了湖畔的杂草花上。田宫犹豫着该如何处理。
愚痴一つこぼさず、癒るかとも癒らないかとも聞かず、静かに寝ていた綾子の姿が、山吹の花の黄色に通う湖畔の雑草の花に、湖心の眼を通じて定着するのだった。そしてその処置に、田宮は迷った。
傍晚时分,夕阳西下,落日余晖在湖面上流动。那余晖忽明忽暗地飘荡着,又忽明忽暗地在水面上飘荡着,然后在各处轻轻分开,一个接一个地消失了。既美丽又虚幻。
夕頃になると、西の山の端に没した太陽の残照が湖面に流れることがあった。水面とも水中浅くともつかず、ゆらゆらちらちらと、その残照はしばし漂い、そしてあちこちに小さく別れて、次々に消え失せていった。美しくもあり儚なくもあった。
但是,在残照消失的时候,也看到了讨厌的东西的身影。在靠近水面的水中,隐约可见。
也是绫子病中。说是小猫,其实是一只已经长大了的红毛猫,不知从哪里跑了过来。不知道是迷路了还是被遗弃了,总之不是野猫。那个在院子里吃着什么。仔细一看,原来是家里养的一只猫吐出来的食物。猫总是吃身上的毛,当毛积存在胃里时,就会吞下草叶和竹叶,自己钻进胃里,把毛和饭粒一起吐出来。外来的小猫正在吃那一大块饭粒。本来不是因为有毒物或疾病才呕吐的,所以不会有什么害处,但大口大口地吃这些东西,既不美观也不秽。一定是饿了吧。
だが、その残照の消えがたに、いやなものの姿も見えた。水面すれすれの水中に、ちらと見えた。
やはり綾子の病中だった。仔猫、といっても、もう可なり大きくなってる赤毛の猫が、どこからかやって来た。迷ったのか捨てられたのか、とにかく野良猫ではなかった。それが庭で何か食べていた。よく見ると、家に飼ってる猫の一匹が吐き出した食物だ。猫というものは、始終体の毛を嘗めるので、その毛が胃袋にたまると、草の葉や笹の葉を呑みこんで自ら胃袋を擽ぐり、飯粒などと一緒に毛を吐き出すことがある。その飯粒の塊りを、外来の仔猫が食べていた。もともと、毒物とか病気とかのために吐いたのではないから、害になるものではないが、それをむしゃむしゃ食べてるところは、浅間しくもあり穢ならしくもあった。きっと空腹だったのだろう。
田宫感到不快,想用竹扫帚把那只小猫赶走。然而,这只厚脸皮的猫,就算用扫帚尖戳,也不肯逃跑。与其说是厚颜无耻,不如说是身体虚弱。硬是把他赶出了大街。
过了一会儿,那只小猫又爬上了储物间的屋顶。田宫很生气,用晾衣杆把他拍了下来。猫既不叫也不逃,蹲在地上。这时,女佣来了,用竹扫帚把猫扫走,把猫赶到了很远的地方。
田宮はいやな気がして、その仔猫を竹箒で追っ払おうとした。ところが図々しい猫で、箒の先でつっ突いてもなかなか逃げようとしなかった。図々しいというより寧ろ、だいぶ衰弱してるようだった。それを無理やり、往来の方へ追い出した。
それから暫くすると、その仔猫が、こんどは物置の屋根の上に登っていた。田宮は腹を立てて、物干竿で叩き落してやった。猫は鳴きもせず、逃げもせず、地面に蹲まってしまった。そこへ女中が来て、猫を竹箒の先で掃き去るようにして、往来の可なり遠い所へ追っ払ってくれた。
那是傍晚的事了。第二天,从厨房回来的女佣说,那只小猫蹲在废墟的路边。听了这话,田宫皱起了眉头。
小猫大概整夜一动不动地蹲在那里。家里也不让他进,也不给他食物,他垂头丧气地等着什么,一声不响地呆着。究竟在等待什么呢?而且要这样做到什么时候呢?
それは夕方のことだったが、その翌日、用達しから帰って来た女中が言うのには、あの仔猫が焼跡の路傍にしゃがんでいたそうである。それを聞いて、田宮は眉根をしかめた。
仔猫はおそらく、一晩中、その辺にじっとしゃがんでいたのだ。家にも入れて貰えず、食物も与えられず、しょんぼりと何かを待ちながら黙りこんでじっとしていたのだ。いったい、何を待っていたのであろうか。そしていつまでそうしていることであろうか。
那只小猫的身影清楚地浮现在我的脑海里。如今,又在湖面的余晖中苏醒过来。浅间与其说是凄凉,不如说是一副可怜悲伤的样子。
田宫自己,在这大自然中,被认为是一个可悲可悲的人。酒店旁边有一片榆树乔木林,走进其中,只有微微发冷。这并不是因为盛夏气温也不会升到二十度以上的土地的缘故,而是被笼罩在天空中的郁郁葱葱的森林压住了,自己感到卑微和卑微。走出那片树林,沿着湖边的路,找到了不熟悉的树木——桂树、桃树,也没有什么兴致。溪流注入湖中的声音微弱,有时能听到小鸟的声音,却不见它的踪影。
その仔猫の姿が、はっきり脳裡に浮んだ。今もまた、湖面の残照の中に蘇ってきた。浅間しいというよりは、哀れな悲しい姿だった。
田宮自身、この大自然の中にあっては、哀れな悲しい者と自ら思われた。ホテルの横手に楡の喬木の林があり、その中に踏み込むと、ただほろ寒かった。盛夏でも気温二十度以上には昇らないという土地の故ではなく、空を蔽う欝蒼たる森林の気に圧せられて、自分自身が卑小に卑小に感ぜられた。その林から出て、また湖畔の道を辿りながら、あまり見馴れない樹木、桂だの沢胡桃だのを探しあてても、感興は湧かなかった。湖に注ぐ渓流の音はかすかであり、小鳥の声が時には聞えても、その姿は見えなかった。
人世间的活动,看起来都很微小。而在这里,有一种像哲人一样的年轻人。 在丸沼和菅沼之间,沿着卡车通过的主路走的话有相当的距离。然而,不远处的后路却被打开了。从金精峠山麓菅沼湖畔的山的家那里,乘小船横过湖面。左手遥望日光深处白根的秀峰,右手眺望耸立在海角顶端的八角堂废弃房屋,来到湖身,然后登上南岸。从这里到丸沼东岸,沿着溪流沿着陡峭的坡道而下。这里,俗称八丁瀑布。原程八町之遥。溪流是菅沼的水注入丸沼。战争期间这里有个小水电站。菅沼和丸沼之间的水位差近三百米,其水仅在八町的距离就能流下来,因此到处都能形成急湍,八丁瀑布因此而得名。
人の世の営みが、すべて微小に見えた。そしてここには、一種の哲人めいた若者がいた。
丸沼と菅沼の間、トラックの通る本道を行けば相当の距離がある。だが、近い裏道が開けていた。金精峠の麓、菅沼湖畔の山の家の所から、小舟に乗って湖を突っ切る。左手遙かに日光奥白根の秀峰を仰ぎ、右手の岬の先端に聳えてる[#「聳えてる」は底本では「聾えてる」]八角堂の廃屋を眺め、湖の胴体に出て、それから南岸に上る。ここから丸沼の東岸まで、渓流沿いに急峻な坂道を下るのである。ここの所を、俗に八丁滝と呼ばれている。旧道程で八町の距離。渓流は菅沼の水が丸沼に注ぐもの。戦時中はここに小さな水力発電所があった。菅沼と丸沼との水位の差は三百メートル近くあり、その水が僅か八町の距離で流れ落ちるのだから、至る所に急湍を作り、八丁滝の名がある所以だ。
菅沼、丸沼都居住着鲤鱼及鲫鱼类,鳟鱼则放流于此。鳟鱼养殖所远在丸沼下方,有虹鳟鱼和姬鳟鱼两种。产卵期分春天和秋天,不会变成杂种。 捕捉这种放流鳟鱼的主要是在菅沼山的家附近。菅沼水深而幽默寡言,很有男子气概,而山宅附近,水比较浅,地势开阔,捕食量也比较大,鳟鱼经常靠近。在那里撒网或垂钓。
菅沼にも丸沼にも、鯉や鮒の類が住み、鱒が放流してある。鱒の養殖所は丸沼の遙か下方にあって、虹鱒と姫鱒の二種。産卵期が春と秋に分れてるので、雑種になることはない。
この放流の鱒を捕るのは、主として、菅沼の山の家の近くだった。菅沼は水深く幽寥で男性的だが、山の家の近くは、水がわりに浅く、地勢が明るく開け、餌食も多いとみえて、鱒がよく寄りつく。そこに網を張り、または釣りを垂れる。
在丸沼酒店,有一位年轻人是鳟鱼捕捉技术人员。一般都是披着雨衣,提着鱼笼,早饭后出门,爬上八丁瀑布的陡坡,从菅沼尻乘小船划船到山中的家。之后,他又做些杂事,又捕鳟鱼,傍晚时分,沿着同样的道路返回。那几乎是每天的工作。
鱒捕りの技術者として、丸沼ホテルに一人の若者がいた。たいてい雨合羽をまとい、魚籠をさげて、朝食後出かけてゆき、八丁滝の急坂を登り、菅沼尻から小舟で山の家まで漕いでゆく。それから雑用をしたり、鱒を捕ったりして、夕刻、同じ道筋を帰ってくる。それが殆んど日課だった。
没有捕到很多鳟鱼。但是,在宾馆里有需要充分招待的客人的时候,因为不想缺少名产的鱼,所以如果缺少的话,经理就很为难。然后对年轻人唠唠叨叨地说:“有什么办法吗?”小伙子泰然地回答。
鱒はたくさんは捕れなかった。けれども、ホテルで充分の接待をしなければならない賓客がある場合など、名物の魚を欠かしたくないので、それが不足するとマネージャーは困った。そして若者に、何とかならないかと小言交りに言うのだった。若者は泰然と答えた。
“不能如愿以偿。特别是自从那个露营村建成后,我可不放心……” 山里的房子旁边有露营地,同时也有几艘出租的小船。精神矍铄的青年们驾驶着这条小船四处游荡,不仅经常损坏鳟鱼网,而且根据时间的不同,有时还会特意打捞出鳟鱼网来捕鳟鱼。年轻人若无其事地看遁了。然后还是坦然地,每天往返山里的房子,不管猎物是多是少,都拉起了网。
「思うようになりませんよ。ことに、あのキャンプ村が出来てからは、どうも……。」
山の家のそばには、キャンプ場が出来ると共に、貸ボートが数隻並んだ。元気のいい青年たちがそのボートを乗り廻して、鱒網を破損することが多いばかりか、時によるとわざわざ網を引き揚げて、鱒を取ったりすることがあるらしい。それを若者は平気で見遁していた。そしてやはり平然と、毎日のように山の家まで往復して、獲物が多かろうと少なかろうと、網を張ってるのだった。
冬天雪很深,旅馆也关闭,因为是一起下山的土地,年轻人在那个期间做什么不清楚,旅馆开的期间,他只是默默地继续自己的工作。不知道他在想什么,委屈和野心都看不见影子,和大自然一样沉着。
冬期は雪が深くて、ホテルも閉鎖し、一同山を下る土地なので、若者がその期間に何をしてるかは不明だが、ホテルが開かれてる間、彼はただ黙々として己が仕事をやり続けてるのだった。何を考えてるのか、不平も野心も影さえ見えず、大自然と同様に落着き払っていた。
透过这哲人的风度来看,世人的营生真卑贱。 绫子生病的时候,田宫家里只有一个年轻的女佣,人手不够,所以临时决定找一个上班的女佣。我四处托人,意外地找到了好几个人。那多半是六十岁左右的老太太。早晚的饭都在对方家里,从上午八点左右工作到下午五点左右。田宫的情妇久子每隔一天来一次,照看病人和做家务。 据久子说,这些老奶奶都是家境不好的人。 其中一个叫K的人,有点不知所云。年近七十,头发半白,满脸皱纹,却显得高大健壮。据说他还在干货批发商的裙带菜捆、碾米厂的麻袋缝补、烧饭等工作。不过,他说话很郑重,也多少有些做菜的心得。
この、哲人的風格を通して見ると、世の人の営みはまことに卑賤だった。
綾子の病気の頃、田宮の家には若い女中が一人いるきりで、手不足だったから、臨時に、通勤の女中を探すことにした。あちこち頼んでみると、案外に幾人も見付かった。それがたいてい、六十歳前後の婆さんなのだ。朝夕の食事は先方の自宅ですまして、午前八時頃から午後五時頃まで働いてくれる。田宮の愛人の久子が、一日おきぐらいにやって来て、病人の世話や家事をみていた。
据久子说,这些老奶奶都是家境不好的人。 其中一个叫K的人,有点不知所云。年近七十,头发半白,满脸皱纹,却显得高大健壮。据说他还在干货批发商的裙带菜捆、碾米厂的麻袋缝补、烧饭等工作。不过,他说话很郑重,也多少有些做菜的心得。
久子の言うところによると、それらのお婆さんはみな、家庭的に不仕合せなひとばかりだった。
そのうちの一人、Kさんというのは、ちょっと得態の知れないひとだった。年は七十に近く、髪は半白で、顔中皺だらけだが、背が高くて頑丈そうだった。乾物問屋のワカメ束ねだの精米所の麻袋繕いや飯焚きだのに働いたこともあるそうだ。だが、言葉は丁寧で、料理の心得も多少あった。
家里有一对儿子,K先生的丈夫闲着,又是守孙子,又是做手工活,晚上喝一杯酒,很开心。K先生喜欢抽烟,连田宫的吸烟儿也要了。行动狡猾,看得见的地方按吩咐收拾,看不见的地方就偷工减料。找个借口好好休息了。
家には、息子夫婦がおり、Kさんの亭主はぶらぶら遊んでいて、孫の守りをしたり手内職をしたりして、晩に一杯の晩酌をするのが楽しみだそうだった。Kさんは煙草が好きで、田宮の吸い殼までも貰って吸った。働きかたがずるくて、目に見えるところは言われた通りに片付けるが、見えないところは手を抜いた。何かの口実を設けてはよく休んだ。
媳妇有严重的歇斯底里,一件小事就大叫一声,还老想着耍我。” K先生虽然这么说,但我知道那其实是假的。据了解K家的人说,他的媳妇是个干净整洁的人,因为K太邋遢,所以他经常说他的坏话。
「嫁が、ひどいヒステリーでございまして、ちょっとしたことにもがみがみ怒鳴りますし、わたくしをこき使うことばかり考えてるんですよ。」
Kさんはそう言ったが、それが実は嘘だと分った。Kさんの家を知ってるひとの話では、嫁さんはきれい好きなきちんとしたひとで、Kさんがだらしないものだから、いつも小言を言われてるのだそうだった。
这样那样地,田宫向K先生告辞了。
另外,N先生这个人也很奇怪。五十来岁的年纪,看来为人很踏实,身形也很利落。我希望能住在这里。听照顾他的人说,他在某户人家工作,那是在电车里,吵得晚上睡不着觉,所以就请了假,想找个安静的人家工作。说来也奇怪,总之是眼睁睁看着我来的。田宫把接待任务交给来的久子。
それやこれやで、田宮はKさんに暇を出した。
また、Nさんというひともおかしかった。五十ぐらいの年配で、しっかりした人柄のようだし、身形もきりっとしていた。これは泊り込みが希望だった。世話した人の話では、或る家に勤めていたが、それが電車通りで、うるさくて夜もろくに眠られなかったから、暇を貰ってるので、どこか静かな家に勤めたいとのこと。へんな話だが、とにかく目見えに来て貰った。田宮は来合せていた久子に応対を任せた。
“既然到别处去当佣工,总有什么情况吧,家里也总有不愉快的时候,不过,我们家是个没有顾虑的人,请保持轻松愉快的心情吧。”
「よそに出て奉公なさるというからには、なにか事情もおありでしょうし、家の中が面白くないというようなこともおありでしょうが、こちら、気兼ねのない家ですから、らくな気持ちでいて下さいよ。」
久子这么说,N先生伏下脸吸了口干结。然后又有事,临走时说。 “住一天,就能很清楚那家的情况。如果我愿意的话,后天就去。” 他的人品看起来也不错,所以决定打消视线,让他来。
そんなことを久子が言うと、Nさんは顔を伏せて涕をすすった。それから何かと用をして、帰りぎわに言った。
「一日いてみますと、そのお家の様子はよく分ります。わたくしでお宜しかったら、明後日から参ることに致します。」
人柄もよさそうだし、目見えを打ち切って、来て貰うことにきめた。
久子这么说,N先生伏下脸吸了口干结。然后又有事,临走时说。 “住一天,就能很清楚那家的情况。如果我愿意的话,后天就去。” 他的人品看起来也不错,所以决定打消视线,让他来。
ところが、その日の帰り途に、Nさんは世話人の家に立ち寄って、田宮のところを断ったのである。猫がいやだというのだった。
「わたし、猫を見ると、ぞーっとするんですよ。それに、あすこの猫、白無地ときてるんでしょう、気味がわるくて……。」
虽然和N先生就这样了,但从头到尾我都不明白。 然后,F先生是个好人。他是个七十岁左右的小个子,忠心耿耿地工作。颜立也是整整齐齐,洁身自好,把蒙佩戴得干干净净。虽然是常来上班的,但事情多的时候就给我住下了。总是勤勤恳恳地转来转去,稍微张开点手就不喜欢了。没事了,他就主动打扫柜子里,整理碗筷,薅院子里的草,还嘱咐年轻女佣出衣服缝补。并经常照顾病人。绫子也对F小姐颇有好感,对她的开场白笑出声来。
Nさんとはそれきりになったが、どうも、初めから終りまで腑に落ちないことだった。
それから、Fさんというのはいいひとだった。七十歳ばかりの小柄なひとで、忠実によく働いた。顔立もととのい、身ぎれいで、モンペをきりっとつけていた。通いの勤めだったが、用の多い日は泊ってくれた。始終こまめに動き廻って、ちょっとでも手をあけてることがきらいだった。用事がなくなると、自分から進んで戸棚の中を掃除したり、食器を整理したり、庭の草をむしったり、若い女中にせっついて衣類の繕い物を出させたりした。そしてよく病人の世話をした。綾子もFさんに好感を持っていて、その打明け話に笑い声を立てた。
F先生家里有一对做榻榻米工的儿子夫妇和四个小孩。老F有了钱,就乐此不疲地给那些孙子们买点东西。儿子的工作维持着一家人的生计,所以F先生外出工作,也是为了自己养老的零花钱和给孙子们的礼物。
Fさんの家には、畳職人である息子の夫婦と、小さな子供が四人いた。Fさんは金がたまると、その孫たちに物を買ってやるのが楽しみだった。息子の働きで一家の生計は立っていたので、Fさんが外に出て働くのも、自分の老後の小遣と孫たちへの贈物とのためだった。
家里的媳妇,连给我热水钱都舍不得。”
说到这些,F先生笑了。
“再说,你说得好嘛!正因为我在家里,奶奶才可以出去干活。不在家里,她还想在哪儿呢?一发脾气,她就说臭婆娘。所以我就回嘴说:什么时候我拉的屎,你的孩子不是经常拉屎吗?……”
「家の嫁ときたら、わたしにお湯銭をくれるのさえ惜しがるんですよ。」
そんなことを言ってFさんは笑った。
「それに、言うことがいいじゃありませんか。わたしがこうして家にいるからこそ、おばあちゃんは外に働きに行けるんじゃないか、ですってさ。家にいないとすれば、どこにいるつもりなんでしょうね。気が立ってくると、糞ったればばあ、とぬかすんですよ。だからわたしは言い返してやります。いつわたしが糞をたれた、お前さんの子供こそ、いつも糞をたれ流しじゃないか……。」
F先生得意地笑了。这是一种豁达开朗的性格。但是,也不见得没有寂寞的影子。和儿媳吵架的故事,对F女士来说也算是一种抱怨吧。
除此之外,各式各样的人到处都是。通常都是老年妇女,作为女佣,她宁愿上下班而不是住进来。虽然因为某种关系和家庭联系在一起,但这个家庭内部并不有趣。久子对田宫说。
Fさんは得意そうに笑った。開けっ放しの朗かな性質なのだ。けれども、なんだか淋しそうな影がないこともなかった。嫁との喧嘩の話も、Fさんにとっては一種の愚痴だったのだろう。
そのほか、いろいろなひとがあちこちにいた。たいてい老年の女で、女中としては住み込みよりも通勤を望んでいた。何等かの関係で家庭に繋がりながら、その家庭内が面白くなかったのである。久子は次のように田宮へ言った。
“用老女佣,不,你用了,总觉得有点奇怪。而且,年轻女佣少了,老女佣又能找到多少,这是怎么回事呢?其实,我们自己的朋友也都有和过去不同的想法了……”
「年寄りの女中を使っていますと、いえ、あなたが使っていらっしゃると、なんだかへんな気がしますわ。それに、若い女中が少くなって、年寄りの女中がいくらも見付かるというのは、どういうことでしょうか。でも実は、あたしたち自身、お友だちなんかもみな、昔とは違った考え方をしておりますし……。」
那就是父母和孩子的关系,特别是母亲和孩子的关系。孩子把他抚养成人,让他结婚,就不再是他母亲的了。儿子成了儿媳的,女儿成了丈夫的。不能成为将来的依靠。靠谱的只有自己……
それはつまり、親と子の関係、殊に母親と子の関係についてだった。子供というものは、育て上げて結婚させてしまえば、もう母親のものではなくなる。息子は嫁のものになってしまうし、娘は夫のものになってしまう。後々までの頼りにはならない。頼りになるのはただ自分だけだ……。
田宫想,那样也好,倒也是理所当然的。即便如此,根据境遇,根据家庭情况,过了五十,到了六七十,还要出去给别人家做女佣,肯定是很惨的。K某、N某、F某和其他老奶奶的身影浮现在眼前。
それはそれでよいし、寧ろ当然なのだ、と田宮は思った。それにしても、境遇により、家庭の事情によって、五十を過ぎてから、六十や七十にもなって、よその家の女中働きに出なければならないというのは、惨めなことに違いなかった。KさんやNさんやFさんや、その他の婆さんたちの姿が、眼に浮んだ。
即使在原始森林中徘徊,那里也没有丝毫劳碌的麻烦。生长茂盛的,枯萎的,缠绕其他事物的,都是自然而然的。没有看到争斗,也没有抵抗,整体有连带性的和谐。身处其中,又怎么会想起曾经的老婢们呢?田宫胡乱走来走去。走累了就泡澡。
原始林の中をさまよっても、そこには齷齪したトラブルは少しもなかった。伸び茂るもの、立ち枯れるもの、他物に絡みつくもの、みな自然にそうなっていた。争いも抵抗も見られず、全体に連帯性的な調和があった。その中にあって、嘗ての老婢たちのことなどを、どうして思い出すのだろうか。田宮はやたらに歩き廻った。歩き疲れると、湯につかった。
连着走廊的另一栋楼里,有一间一百多张草席的大厅。舞台般的高坛上,四周立着两抱左右的巨大自然木柱子。我躺在大厅中间,仰望高高的天花板,比在森林里更寂寞,更不放心。难道是因为人事幽鬼的影子照进来的缘故吗?
廊下続きの別棟に、百畳余りの広間があった。舞台めいた高壇には、二抱えほどもある自然木の巨大な柱が四方に立っていた。その広間の真中に寝そべって、高い天井を仰いでいると、森の中にいるよりは一層淋しく、心許無い気持ちになった。人事の幽鬼の影がさしてくるからだったろうか。
田宫盼望着什么,暴风雨,猛烈的雷声,象摇晃天地一样的东西。然而,平静的日子持续着。
有时,天空的另一面也覆盖着乌云。到湖边窥探情况,却总是落空。乌云从燕巢山方向屯到四郎岳方向,风从相反的方向吹来,渐渐散去。
なにか、暴風雨とか激しい雷鳴とか、天地を揺ぶるようなものを、田宮は待ち望んだ。然し、穏かな日が続いた。
時とすると、空の半面を黒雲が蔽うこともあった。湖畔に出て様子を窺ったが、いつも当が外れた。黒雲は燕巣山の方面から四郎岳の方面にかけて屯していたが、風は反対の方から吹き、徐々に晴れていった。
田宫盼望着什么,暴风雨,猛烈的雷声,象摇晃天地一样的东西。然而,平静的日子持续着。 有时,天空的另一面也覆盖着乌云。到湖边窥探情况,却总是落空。乌云从燕巢山方向屯到四郎岳方向,风从相反的方向吹来,渐渐散去。
湖面に吹きつける風は、長い息をついた。さーっと波頭を立てておいて、すぐに静まり、暫く間を置いて、思いがけない時にまたさーっと来た。方向も一定せず、右からも吹き左からも吹いた。水面の波頭がぶつかり合って渦巻くこともあった。
在这样的漩涡中,漂浮着一片发黄的树叶,不知从哪里飘落下来。缓慢地旋转着,静止地旋转着,不知何时被吹向了海面。田宫目不转睛地看着那个,渐渐地变小,看不见的时候,突然被打动了。久子,不由得在胸中叫。
そういう渦巻きの中に、どこから舞い落ちたか、一枚の黄ばんだ木の葉が浮いていた。ゆるく廻り、また静止し、また廻り、いつとなく沖の方へ吹きやられていった。それを田宮はじっと眺めていたが、次第に小さくなり見えなくなる頃になって、はっと心を打たれた。久子、と思わず胸の中で呼んだ。
最后,她从早上到一整天,几乎是通宵,第二天也是通宵,不断地向田宫诉说着各种各样的事情。
“感觉就像被卷进了巨大的旋涡里,什么都已经搞不清楚了,只是污秽不堪,腐烂的臭气让人难以忍受。我们分手吧。”
彼女は最後に、朝から終日、そして殆んど徹宵、次の日も終日、徹宵して、さまざまなことを繰り返し田宮に訴えた。
「大きな渦巻きの中に巻き込まれたような気持ちです。もう何もかも訳が分らなくなりました。ただ穢らわしい。腐ったような臭気には堪えられません。お別れしましょう。」
然后第二天,她打算服毒自杀。幸运的是,这种毒药不是装在遮光的着色瓶里,而是装在普通的玻璃瓶里常年放了一个月,已经变质了,所以不太有效,她保住了生命。
そしてその翌日、彼女は毒を仰いで自殺をはかった。幸なことに、その毒薬が、遮光の着色壜にでなく、普通の硝子壜に長年月の間入れられていて、可なり変質していたため、充分に利かず、彼女は生命を取り留めることが出来た。
那是绫子去世一年后的事。绫子在金花凋谢后还活了两个半月。在这期间,她像母亲一样,也像姐姐一样,依靠着从年龄差来看既不能说是母亲也不能说是姐姐的久子。她死后,久子在护士之前处理尸体,在田宫的亲戚之前处理葬礼。但是,之后的一年却过得不如意。
綾子が亡くなってから一年後のことだった。綾子は山吹の花が散ってしまってからまだ二ヶ月半ばかり生きていた。その間彼女は、年齢の差から見れば母親とも姉とも言えない久子を、母のようにも姉のようにも頼りにした。そして彼女の死後、久子は看護婦に先立って死体の始末をし、田宮の親戚の者に先立って葬儀を取り計らった。だが、その後の一年間がいけなかった。
漩涡是什么?嫉妒、反感、阿谀奉承、利欲熏心,各种交杂的告状,真假招惹的又添枝加叶的告密,是人世间最浅薄的样子。下面按顺序列举一下久子听到的事情的概略。
渦巻きとは何であったか。嫉視、反感、阿諛、利慾、その他さまざまなものが入交った告げ口、真偽とりまぜたものに尾鰭をつけ色合を変えた密告で、人の世の最も浅間しい姿だった。久子が聞かされた事柄の概略を順序不同に列挙してみよう。
(待续)