烟瘾
佐左木俊郎
从札幌郊区丰平出发的两轮无盖马车,沿着指向北方的砂石路,哐当哐当地朝月色凛冽的村庄驶去。
马车上坐着两名相对而坐的乘客。两人都衣着寒酸,一个是年近五十的老太婆。其中一个果然是年纪相仿的老爷爷。
老爷爷不停地抽着烟。烟随风飘到老婆婆脸上。老太婆每次都把头扭向一边,想躲开烟雾。
“这好像是在向你自己喷烟……”
老爷爷轻轻点头说。但是,老爷爷还是继续抽烟。
“沾点烟没关系,没关系,喜欢抽烟的人没办法。”
老婆婆微笑着说。
“我只要睁开眼睛,就怎么也抽不动烟。”
老大爷说着,这次对着湛蓝的天空吐出一口烟。
“听说喜欢抽烟的人半夜醒来也会在床上抽一支呢。”
“我呀,岂有此理。总之,不管是半夜还是白天,只要睁开眼睛就这样抽烟。毕竟,我从十五六岁就开始抽烟了。”
“那么,已经连续喝了三四十年喽。”
“这个嘛,快三十五六年了吧?”
老爷爷说着,轻轻闭上眼睛,仿佛在回忆遥远的记忆。
“您要去哪里?”
老婆婆好像很高兴有了说话的对象,突然问道。
“我吗?我到月寒为止。我以前就认识一个牧场,那里装了一个汽油桶,就像那里的火夫一样……”
“天气马上就要变冷了,这可是个好工作啊。”
“不怎么让人生气,反正就是这个。我像这样无节制地抽烟,就算只有香烟钱,也得自己工作才行……”
“您对汽油罐很熟悉吗?”
“汽油桶方面,我从十五六岁开始就在铁路方面的机车仓库工作,到最近一直当机车司机,已经习惯了。怎么说,我进入铁路行业,是在札幌车站刚开小卖部的时候。”
哦!您知道当时札幌的情况吗?”
“那我知道。车站附近开了个小卖部,卖各种各样的东西,那里坐着一个可爱的姑娘。每天都得看那女孩的脸,每天都去那里买烟,毕竟还是个孩子,身上没有多少零用钱。烟什么的也算奢侈了,不过,如果不看那姑娘的脸,我一天也待不下去,可是,那姑娘过了一年就不见了。那个时候,我已经是一个了不起的烟鬼了。好几次我都想过要不要戒烟,但烟熏的时候,奇妙的是,烟气中浮现出坐在小卖部里的姑娘的脸。我总觉得所有的香烟都带有那姑娘的气味,像这样熏着烟,现在我还能从烟雾中看到那姑娘的脸呢。怎么说,为了那个姑娘每天每天都去买烟,一年多了。”
“那可真是……老实说,当时坐在小卖店的人就是我。”
“哈哈!这个嘛。”
老大爷惊讶地瞪大眼睛,目不转睛地盯着老太太的脸。
“这个嘛。”
“你还记得这个吗?”
老婆婆在老大爷面前伸出一只手。手指上的黄铜戒指闪着暗淡的光。
“我想起来了。是你吗?那枚戒指是我把机车的管子剪断做成的。”
混在铜币里,你把它给了我,然后红着脸逃跑似的跑掉的情景,我到现在还记得呢,从那以后,我一刻也没有把戒指从我的手指上摘下来过。磨成这样了。”
“是你吗?那你现在在哪里,在做什么呢?”
“月色很冷,我开了一家不起眼的茶屋,不一会儿就到了,请进来坐一会儿,慢慢地喝杯茶再走吧!那时候的那位是你吗?”
马车已经进入月寒的街道。
——昭和六年(1931年)九月《北海时报》、
十月《河北新报》——
喫煙癖
佐左木俊郎
札幌の場末の街、豊平とよひらを出た無蓋二輪の馬車が、北を指して走っている砂利道を、月寒つきさっぷの部落に向けてがたごとと動いて行った。
馬車の上には二人の乗客が対むかい合って乗っていた。二人とも、いずれも身すぼらしい身装みなりで、一人は五十近い婆ばあさんであった。一人はやはり、同じ年ごろの爺じいさんであった。
爺さんは引っ切りなしに、煙草を燻くゆらしていた。その煙がどうかすると、風の具合で、婆さんの顔にかかった。婆さんはそのたびに横を向いて、その煙を避けようとした。
「これはどうも、貴女あなたの方へばかり、煙を吹きかけるようで……」
爺さんは軽く頭をさげながら言った。しかし、爺さんは、やはりそのまま煙草を吸い続けるのだった。
「煙がかかってようござんすよ。かまいませんよ。煙草の好きな方は仕方がございませんもの。」
婆さんは微笑をもって言うのだった。
「私はどうも、眼を開いている間は、煙草をどうしてもはなせませんのでなあ。」
爺さんはそう言って、今度は紺碧こんぺきの大空に向けて煙を吐はきあげた。
「煙草の好きな方は、夜中に眼を覚ましても、床の中で一服するそうですからね。」
「私のは、それはそれは、それどころじゃないんです。とにかく、夜中だろうが、昼間だろうが、眼を開いている間はこうして煙草を口にしている始末なんで。何しろ、私あ、十五六の時から燻ふかして来たんですから。」
「ではもう、三四十年も呑み続けていらっしゃるわけですね。」
「それさね、早三十五六年にもなりますかなあ?」
爺さんはそう言って、遠い記憶を思い出そうとするように、軽く眼を閉じた。
「何方どちらまでおいでになりますかよ?」
婆さんは、話し相手の出来たのをよろこんでいるように、突然そんなことを訊いた。
「私かね? 私あ、月寒までです。前から知っている牧場で、汽罐かまを一つ据え付けたもんですて、そこのまあ火夫というようなわけで……」
「これから寒くなりますから、それは、結構な仕事でございますよ。」
「あまりどっとしないんですがね、何しろこれ。私あ、こうして無暗むやみに煙草を燻かすもんですから、煙草銭だけでも自分で働かないと……」
「汽罐の方は手慣れておいでなのですかよ?」
「汽罐の方はそりゃ、私あ、十五六の時から、鉄道の方の、機関庫にいまして、最近までずうっと機関手をやって来ていますから。そりゃ慣れたもんでさあ。何しろ、私が鉄道に這入はいったのは、札幌の停車場に、初めて売店というものが出来たころですからなあ。」
「ほう! その頃の札幌を御存じなのですか?」
「そりゃよく知ってまさあ。停車場に売店というものが出来て何かいろいろの物を売っていましたっけが、そこに可愛い娘が一人座ってましてなあ。私あ、その娘の顔を、一日として見ないじゃいられなくなりまして、毎日そこへ、煙草買いに行ったもんでさあ。何しろ子供のことですから、小遣い銭なんかろくろく持ってないんで。煙草なんかも贅沢ぜいたくなことでしたが、何しろその娘の顔を見ないじゃ、一日として凝じっとしていられないもんですからなあ。しかし、その娘は、それから一年ばかりでいなくなってしまいましたがなあ。その時には私あもう、立派なはあ、喫煙家になっていましたよ。何度となく、煙草をよそうかと思ったこともありましたが、煙草を燻かしていると奇妙なことにその煙の中へ売店に座っていた娘の顔が浮かんで来ますのでなあ。なんかこう、煙草という煙草には、その娘の匂いまでついているような気がしましたんでなあ。こうして煙草を燻かしていると、今でも私あ、その娘の顔が、煙の中へ見えて来ますんですよ。何しろ、その娘のために毎日毎日一年あまりも煙草を買いに通ったんですからなあ。」
「それはそれは……実を申しますと、あの頃その売店に座っていたのは、私でござんすよ。」
「ははあ! それさね。」
爺さんは驚きの眼をみはって、婆さんの顔を、じっと視直みなおした。
「それさね。」
「これを覚えておいででしょうがね?」
婆さんは爺さんの前に片手を出して見せた。その指には真鍮の指輪が鈍く光っていた。
「思い出しました。貴女あなたでしたか? その指輪は、私が、機関車のパイプを切ってこしらえた指輪でしたがなあ。」
「銅貨の中へ混ぜて、貴方あなたがこれを私にくれて、顔を赤くしながら逃げるようにして走って行ったのを、今でも覚えていますよ。私はそれから、この指輪を片時もこの指から脱いたことがございませんよ。こんなに磨り滅ってしまいました。」
「貴女でしたか? それで貴女は、今、どこで何をしておいでになりますね。」
「月寒で、ほんのつまらない店をもって、お茶屋をやっています。すぐですからどうぞお寄りになって、ゆっくり、お茶でもあがって行って下さいましよ。それはそれは、あの時の方は、貴方でございましたか?」
馬車はもう月寒の町並に這入っていた。
――昭和六年(一九三一年)九月『北海タイムス』、
十月『河北新報』――