YUKI-ONNA
小泉八雲
(KOIZUMI YAKUMO,1850-1904),爱尔兰裔日本作家,原名拉夫卡迪奥·赫恩(Lafcadio Hearn)。
小泉八云写过不少向西方介绍日本和日本文化的书,是近代史上有名的日本通,现代怪谈文学的鼻祖,其主要作品有《怪谈》《来自东方》等。
田部隆次日译
王志镐汉译
武蔵の国のある村に茂作、巳之吉と云う二人の木こりがいた。この話のあった時分には、茂作は老人であった。そして、彼の年季奉公人であった巳之吉は、十八の少年であった。毎日、彼等は村から約二里離れた森へ一緒に出かけた。その森へ行く道に、越さねばならない大きな河がある。そして、渡し船がある。渡しのある処にたびたび、橋が架けられたが、その橋は洪水のあるたびごとに流された。河の溢れる時には、普通の橋では、その急流を防ぐ事はできない。
武藏国的某个村子里,住着茂作和巳之吉两位樵夫。说这话时,茂作已经是个老人了。而他的学徒巳之吉是个十八岁的少年。每天,他们一起去离村子约二里远的森林。在通往森林的路上,有一条必须越过的大河。还有渡船。有渡桥的地方经常架桥,每当洪水来临时,桥就被冲毁。河水泛滥的时候,普通的桥是无法阻挡急流的。
茂作と巳之吉はある大層寒い晩、帰り途で大吹雪に遇った。渡し場に着いた、渡し守は船を河の向う側に残したままで、帰った事が分った。泳がれるような日ではなかった。それで木こりは渡し守の小屋に避難した――避難処の見つかった事を僥倖に思いながら。小屋には火鉢はなかった。火をたくべき場処もなかった。窓のない一方口の、二畳敷の小屋であった。茂作と巳之吉は戸をしめて、蓑をきて、休息するために横になった。初めのうちはさほど寒いとも感じなかった。そして、嵐はじきに止むと思った。
一个寒冷的夜晚,茂作和巳之吉在归途中遇到了暴风雪。到了渡口,渡船管家把船留在河对岸,就回去了。不是可以游泳的日子。于是樵夫到渡船看守的小屋避难——侥幸找到了避难所。小屋里没有火盆。也没有烧火的地方。这是一间两张榻榻米大小的小屋,没有窗户。茂作和巳之吉关上门,穿上蓑衣,躺下休息。一开始并不觉得冷。而且,我认为暴风雨很快就会停止。
老人はじきに眠りについた。しかし、少年巳之吉は長い間、目をさましていて、恐ろしい風や戸にあたる雪のたえない音を聴いていた。河はゴウゴウと鳴っていた。小屋は海上の和船のようにゆれて、ミシミシ音がした。恐ろしい大吹雪であった。空気は一刻一刻、寒くなって来た、そして、巳之吉は蓑の下でふるえていた。しかし、とうとう寒さにも拘らず、彼もまた寝込んだ。
老人很快就睡着了。但是,少年巳之吉已经醒了很长时间,听着可怕的风和雪打在门上的声音。河面轰隆轰隆地响着。小屋像海上的和船一样摇晃,发出咯吱咯吱的声音。那是一场可怕的暴风雪。空气越来越冷,巳之吉在蓑衣下瑟瑟发抖。但是,他终于不顾寒冷,又病倒了。
彼は顔に夕立のように雪がかかるので眼がさめた。小屋の戸は無理押しに開かれていた。そして雪明かりで、部屋のうちに女、――全く白装束の女、――を見た。その女は茂作の上に屈んで、彼に彼女の息をふきかけていた、――そして彼女の息はあかるい白い煙のようであった。ほとんど同時に巳之吉の方へ振り向いて、彼の上に屈んだ。彼は叫ぼうとしたが何の音も発する事ができなかった。白衣の女は、彼の上に段々低く屈んで、しまいに彼女の顔はほとんど彼にふれるようになった、そして彼は――彼女の眼は恐ろしかったが――彼女が大層綺麗である事を見た。しばらく彼女は彼を見続けていた、――それから彼女は微笑した、そしてささやいた、――
他的脸像骤雨一样被雪淋醒了。小屋的门被强行打开。然后借着雪光,看到房间里的女人——一身白衣的女人——。那个女人蹲在茂作身上,向他吹她的气——她的气像明亮的白烟。几乎同时转向巳之吉,蹲在他身上。他想喊却发不出任何声音。穿白大褂的女人在他身上越来越低,最后她的脸几乎要碰到他了,他看见——她的眼睛很吓人——她非常漂亮。她盯着他看了一会儿——然后她微笑了,然后低声说——
『私は今ひとりの人のように、あなたをしようかと思った。しかし、あなたを気の毒だと思わずにはいられない、――あなは若いのだから。……あなたは美少年ね、巳之吉さん、もう私はあなたを害しはしません。しかし、もしあなたが今夜見た事を誰かに――あなたの母さんにでも――云ったら、私に分ります、そして私、あなたを殺します。……覚えていらっしゃい、私の云う事を』
“我现在想把你当作一个人来对待,但是我觉得你很可怜,因为你还年轻……你是个美少年,巳之吉先生,我已经不会伤害你了。但是,如果你把今晚看到的事情告诉任何人——甚至告诉你母亲——我知道,我会杀了你……请记住我说的话。
そう云って、向き直って、彼女は戸口から出て行った。その時、彼は自分の動ける事を知って、飛び起きて、外を見た。しかし、女はどこにも見えなかった。そして、雪は小屋の中へ烈しく吹きつけていた。巳之吉は戸をしめて、それに木の棒をいくつか立てかけてそれを支えた。彼は風が戸を吹きとばしたのかと思ってみた、――彼はただ夢を見ていたかもしれないと思った。それで入口の雪あかりの閃きを、白い女の形と思い違いしたのかもしれないと思った。しかもそれもたしかではなかった。彼は茂作を呼んでみた。そして、老人が返事をしなかったので驚いた。彼は暗がりへ手をやって茂作の顔にさわってみた。そして、それが氷である事が分った。茂作は固くなって死んでいた。……
说着,她转身走出门口。这时,他知道自己能动了,便跳起来向外看。但是,哪里都看不到女人。而且,雪猛烈地吹向小屋。巳之吉关上了门,用几根木棍支撑着门。他以为是风把门吹走了——他想他可能只是在做梦。所以才会把入口雪光的闪光误以为是白娘子的形状。而且也不确定。他把茂作叫来。老人没有回答,我吃了一惊。他把手伸向黑暗,摸了摸茂作的脸。然后发现那是冰。茂作僵硬地死了。……
あけ方になって吹雪は止んだ。そして日の出の後少ししてから、渡し守がその小屋に戻って来た時、茂作の凍えた死体の側に、巳之吉が知覚を失うて倒れているのを発見した。巳之吉は直ちに介抱された、そして、すぐに正気に帰った、しかし、彼はその恐ろしい夜の寒さの結果、長い間病んでいた。彼はまた老人の死によってひどく驚かされた。しかし、彼は白衣の女の現れた事については何も云わなかった。再び、達者になるとすぐに、彼の職業に帰った、――毎朝、独りで森へ行き、夕方、木の束をもって帰った。彼の母は彼を助けてそれを売った。
天亮后暴风雪停了。日出后不久,渡船管家回到小屋时,发现巳之吉已经失去知觉倒在茂作冻僵的尸体旁边。巳之吉立即得到了照顾,很快就恢复了正常,但由于那个可怕的夜晚寒冷,他病了很长时间。他又被老人的死吓坏了。但他对白衣女子的出现只字未提。他恢复了自己的职业——每天早上独自到森林里去,晚上带着一捆木头回家。他的母亲帮助他卖掉了它。
翌年の冬のある晩、家に帰る途中、偶然同じ途を旅している一人の若い女に追いついた。彼女は背の高い、ほっそりした少女で、大層綺麗であった。そして巳之吉の挨拶に答えた彼女の声は歌う鳥の声のように、彼の耳に愉快であった。それから、彼は彼女と並んで歩いた、そして話をし出した。少女は名は「お雪」であると云った。それからこの頃両親共なくなった事、それから江戸へ行くつもりである事、そこに何軒か貧しい親類のある事、その人達は女中としての地位を見つけてくれるだろうと云う事など。巳之吉はすぐにこの知らない少女になつかしさを感じて来た、そして見れば見るほど彼女が一層綺麗に見えた。彼は彼女に約束の夫があるかと聞いた、彼女は笑いながら何の約束もないと答えた。それから、今度は、彼女の方で巳之吉は結婚しているか、あるいは約束があるかと尋ねた、彼は彼女に、養うべき母が一人あるが、お嫁の問題は、まだ自分が若いから、考えに上った事はないと答えた。
第二年冬天的一个晚上,他在回家的路上偶然赶上了一个年轻女子。她是个高挑苗条的少女,长得非常漂亮。她回应巳之吉问候的声音就像鸟儿歌唱的声音一样,在他听来很愉快。然后,他和她并肩走着,开始说话。少女说自己的名字叫“阿雪”。还有最近父母双亡的事,还有打算去江户的事,那里有几家贫穷的亲戚,那些人会给他们找到一个女佣的职位等等。巳之吉立刻对这个陌生的少女感到了怀念,而且越看越觉得她更加美丽。他问她有没有承诺的丈夫,她笑着回答没有承诺。接着,我问他巳之吉结婚了没有,也和巳之吉约好了没有,他回答说,他有一个要养的母亲,至于嫁给他的问题,因为自己还年轻,所以还没想过。
……こんな打明け話のあとで、彼等は長い間ものを云わないで歩いた、しかし諺にある通り『気があれば眼も口ほどにものを云い』であった。村に着く頃までに、彼等はお互に大層気に入っていた。そして、その時巳之吉はしばらく自分の家で休むようにとお雪に云った。彼女はしばらくはにかんでためらっていたが、彼と共にそこへ行った。そして彼の母は彼女を歓迎して、彼女のために暖かい食事を用意した。お雪の立居振舞は、そんなによかったので、巳之吉の母は急に好きになって、彼女に江戸への旅を延ばすように勧めた。そして自然の成行きとして、お雪は江戸へは遂に行かなかった。彼女は「お嫁」としてその家にとどまった。
……坦白交谈之后,他们沉默地走了很长时间,但正如谚语所说:“有心的话,眼睛也会说话。”到达村子的时候,他们已经非常喜欢彼此了。那时巳之吉对阿雪说,让她在自己家里休息一下。她害羞地犹豫了一会儿,和他一起去了那里。他的母亲欢迎她,并为她准备了热腾腾的饭菜。阿雪的举止那么好,巳之吉的母亲忽然喜欢上了她,劝她多去江户旅行。于是顺其自然,阿雪最终没有去江户。她作为“妻子”留在了那个家里。
お雪は大層よい嫁である事が分った。巳之吉の母が死ぬようになった時――五年ばかりの後――彼女の最後の言葉は、彼女の嫁に対する愛情と賞賛の言葉であった、――そしてお雪は巳之吉に男女十人の子供を生んだ、――皆綺麗な子供で色が非常に白かった。
阿雪是个非常好的媳妇。巳之吉的母亲去世时——五年之后——她的最后一句话,是对儿媳的疼爱和赞赏;而阿雪为巳之吉生下了男女十个孩子——都是漂亮的孩子,皮肤非常白皙。
田舎の人々はお雪を、生れつき自分等と違った不思議な人と考えた。大概の農夫の女は早く年を取る、しかしお雪は十人の子供の母となったあとでも、始めて村へ来た日と同じように若くて、みずみずしく見えた。
乡下人认为阿雪是天生与自己不同的不可思议之人。一般的女农夫都早早老去,但阿雪虽然已经是十个孩子的母亲了,看上去还是和第一次来村子时一样年轻、水灵。
ある晩子供等が寝たあとで、お雪は行燈の光で針仕事をしていた。そして巳之吉は彼女を見つめながら云った、――
『お前がそうして顔にあかりを受けて、針仕事をしているのを見ると、わしが十八の少年の時遇った不思議な事が思い出される。わしはその時、今のお前のように綺麗なそして色白な人を見た。全く、その女はお前にそっくりだったよ』……
一天晚上,孩子们都睡了之后,阿雪在灯笼的灯光下做针线活。巳之吉凝视着她说:
“看到你在脸上照着灯光做针线活,我想起了我十八岁少年时遇到的不可思议的事,那时我看见了像现在的你这样美丽而白皙的人。那个女人简直和你一模一样”……
仕事から眼を上げないで、お雪は答えた、――
『その人の話をしてちょうだい。……どこでおあいになったの』
そこで巳之吉は渡し守の小屋で過ごした恐ろしい夜の事を彼女に話した、――そして、にこにこしてささやきながら、自分の上に屈んだ白い女の事、――それから、茂作老人の物も云わずに死んだ事。そして彼は云った、――
阿雪看也不看工作,回答说——
“说说那个人的事……我们在哪里见的?”
巳之吉对她说了他在一个摆渡人的小屋里度过的那个可怕的夜晚,还有那个微笑着低语着,蹲在自己身上的白衣女子,还有茂作老人一言不发地死去的事。然后他说——
『眠っている時にでも起きている時にでも、お前のように綺麗な人を見たのはその時だけだ。もちろんそれは人間じゃなかった。そしてわしはその女が恐ろしかった、――大変恐ろしかった、――がその女は大変白かった。……実際わしが見たのは夢であったかそれとも雪女であったか、分らないでいる』……
无论是睡着的时候还是醒着的时候,我都只有在那个时候见过像你这么漂亮的人。那当然不是人。我很怕那女人——很怕,但她很白。……实际上我也不知道我看到的是梦还是雪女”……
お雪は縫物を投げ捨てて立ち上って巳之吉の坐っている処で、彼の上に屈んで、彼の顔に向って叫んだ、――
『それは私、私、私でした。……それは雪でした。そしてその時あなたが、その事を一言でも云ったら、私はあなたを殺すと云いました。……そこに眠っている子供等がいなかったら、今すぐあなたを殺すのでした。でも今あなたは子供等を大事に大事になさる方がいい、もし子供等があなたに不平を云うべき理由でもあったら、私はそれ相当にあなたを扱うつもりだから』……
彼女が叫んでいる最中、彼女の声は細くなって行った、風の叫びのように、――それから彼女は輝いた白い霞となって屋根の棟木の方へ上って、それから煙出しの穴を通ってふるえながら出て行った。……もう再び彼女は見られなかった。
阿雪扔下布匹,站到巳之吉坐的地方,蹲在他身上,冲着他的脸喊道:——
“那是我,我,我……那是雪,而且当时你说,只要说一句那件事,我就杀了你……如果没有睡在那里的孩子,我现在就杀了你。但是现在你还是好好珍惜孩子们比较好,如果孩子们有应该向你抱怨的理由,我也会好好对待你的”……
她叫喊着,她的声音越来越细,像风一样的叫喊——然后她化作耀眼的白霞爬上屋梁,然后穿过烟洞,颤颤巍巍地走了出去。……再也看不到她了。